正恩氏とトランプ氏の表情が対照的だった理由
テレビを見ていると、正恩氏はよく笑顔を見せていた。それに比べトランプ氏の表情は固かった。米朝首脳会談は2月27日と28日の両日に行われたが、とくに28日の表情は一段と厳しかった。28日は昼食がキャンセルされ、共同声明の署名式も行われなかったあの物別れの日である。
トランプ氏は記者会見で「北朝鮮が一部の核施設の廃棄を行う見返りに制裁の全面解除を求めてきたが、それには応じられなかった」と話した後、28日午後3時前(現地時間)、予定よりかなり早く帰国の途に着いた。
トランプ氏の表情を厳しくさせたのは、あのロシア疑惑のせいだろう。トランプ氏の元顧問弁護士マイケル・コーエン氏が27日の米下院監督・政府改革委員会の公聴会で、ロシアが大統領選に干渉したとされる問題について触れ、「トランプ氏は事前に干渉を知っていた」と証言した。この証言でロシアとトランプ氏の結び付きが濃厚になった。
ロシア疑惑は、2016年7月に内部告発サイト、ウィキリークスによって民主党クリントン氏陣営に大打撃を与える大量のメールが暴露されたのが発端だった。これまでトランプ氏は「事前には知らなかった」と説明してきた。
米朝の「物別れ」はロシア疑惑のたまものだ
公聴会では、コーエン氏はトランプ氏の不倫問題をめぐって「嘘をつくよう指示された」とも明らかにした。
米朝首脳会談でハノイにいたトランプ氏は、この公聴会をテレビ中継で見ていたようだ。翌28日午後の記者会見では「彼は公聴会でたくさんの嘘をついた。非常に恥ずかしい」とコーエン氏を激しい口調で批判した。
コーエン氏の公聴会の日程は、下院で多数を占める民主党がトランプ氏の足を引っ張るために首脳会談と同じ日にぶつけてきたといわれる。結果的に球は良い方向に転がった。なぜなら懸念されていた安易な妥協をランプ氏がしなかったからだ。ねじれ議会のたまものだ。政治にはこうした予期せぬたまものが必要なのである。
数の力に頼って驕る安倍晋三首相はこの現象をどう思っただろうか。