なぜトランプ氏は事前に褒めちぎっていたか

産経社説でとりわけ気になったのは、次の指摘である。

「2日間の首脳会談を通じ、トランプ氏は『金委員長はすばらしいことをしようと思っている』などと、しきりに持ち上げた。北朝鮮が核実験とミサイル発射を中止したことに感謝の意を伝えた。物別れに終わった会談後の会見でも、金委員長を信頼していると繰り返し表明した」

確かにトランプ氏は正恩氏を褒めちぎった。それは目に余るぐらいテレビでも放映された。トランプ氏はどうしてあそこまで褒めそやして何度も「信頼している」と語ったのだろうか。

「ブタもおだてりゃ木に登る」ということわざがある。人は褒めて機嫌を取ればその気になって動き出すという意味だが、トランプ氏はこれを狙ったのだろう。正恩氏もおだてれば核・ミサイルを放棄する。トランプ氏は名うての商売人だ。褒めそやすことぐらい朝飯前の芸当だ。

トランプ氏は正面から謝罪をしたわけではない

それを産経社説はストレートにこう批判する。

「北朝鮮の核・ミサイルは、国際社会の平和と安全への重大な脅威である。放棄の要求は、安保理決議に込められた国際社会の総意であり、謝辞は適切ではない」

「謝辞は適切ではない」。トランプ氏は正恩氏に感謝し、褒め言葉を使ってはいたが、謝ったり、正面からお礼を述べたりはしていない。

トランプ氏の言葉の行間を見抜いてほしい。書き手の論説委員が肩肘を張っているから「謝辞は適切ではない」などという陳腐な指摘になってしまうのだろう。斬新な主張が売り物の産経社説だけに残念でならない。

(写真=AFP/時事通信フォト)
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