「透析中止」の女性は精神的に不安定な面があった
これは医療行為というよりも、むしろ殺人ではないか。
東京都福生市の「公立福生病院」で昨年8月、腎臓病を患っていた44歳の女性患者の人工透析治療が中止され、この女性が1週間後に死亡した。病院側は「医師が女性の話を聞いたうえで中止を決めた」と説明しているというが、東京都は病院を医療法に基づいて立ち入り検査するなど本格的な調査に乗り出した。日本透析医学会も調査委員会を立ち上げ、事実関係の調査を始めた。
これまでの報道を総合すると、女性は病院で「末期の腎不全」と診断され、医師や家族と何度か回話し合って透析治療を受けないことを決め、同意書にも署名していた。しかし女性は透析を中止して容体が悪化した直後、中止の考えを改め、病院に透析の再開を求めていた。しかも女性は精神的に不安定な面があったという。
日本透析医学会のガイドライン(指針)によれば、透析治療を中止できるのは、回復の見込みのない終末期の患者が事前に中止の意思を示したうえで、その患者の状態が極めて悪化した場合としている。患者の体の状態が改善したり、患者や家族が透析治療の再開を希望したりしたときには再開するよう求めている。
1回3~4時間を週3~4回行うという大きな負担
公立福生病院の行為は明らかに学会のガイドラインに違反しているが、複数の報道によれば、病院は院内の倫理委員会にこの女性患者の透析中止の問題をかけていなかったという。杜撰である。少数の医師らの独断で決めることではない。
人工透析治療とは、腎臓の機能を失った患者を人工腎臓(透析装置)にかけて患者の血液から尿素やクレアチニンなどの老廃物を取り除く療法である。患者の体に老廃物が溜まると、患者は痙攣や意識障害を引き起こして死んでしまう。本来、人体に2つある腎臓が血液を濾過して老廃物を取り除くとともに尿を作るのだが、この腎臓の代わりに人工腎臓を使う。
通常、1回の人工透析には3~4時間かかり、これを週3~4回行う必要がある。肉体的にも精神的にも負担は大きい。だが、この治療を止めれば死んでしまう。透析患者は右肩上がりで増えており、現在全国で約33万人にも上る。その多くが糖尿病を悪化させて慢性の腎不全になった糖尿病性腎症の患者である。