新元号に「日本の古典」を使ったのは自分のため

4月1日、新元号が「令和(れいわ)」と決まった。天皇陛下の即位にともなって5月1日午前0時から施行される。

日本最初の元号「大化」から数えて248番目にあたる。これまで「令」の字が使われたことはなく、「和」は20回目の使用だ。日本最古の歌集である『万葉集』からの引用で、国書からの引用は初めてだという。

沙鴎一歩は『万葉集』の文言からの引用や「令和」という新元号自体には異論はない。

新元号「令和(れいわ)」の書を傍らに、記者会見する安倍晋三首相=2019年4月1日、首相官邸(写真=時事通信フォト)

しかし安倍晋三首相が自らの理想国家を実現するために、私たち国民のだれもが親しみを感じる『万葉集』を利用して新元号を制定したところには異を唱えたい。安倍首相という男は、自分のために日本の古典まで使うのだ。

一時的に日本中がお祭り騒ぎになっているが、改元に臨んだ安倍首相の真意を読み取る必要がある。

『万葉集』は日本人の魂の文学である

1日午前11時40分から菅義偉官房長官が「令和」の決定を発表し、出典元も明らかにした。

それによると、『万葉集』の「梅花の歌32首」の序文に書かれた漢文「初春令月 気淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香」から取られた。

この序文は、九州・太宰府長官の大伴旅人の屋敷に人々が集まって宴を催し、そのときに皆で歌を詠んだことを説明したものだ。旅人か、旅人の部下の役人、山上憶良の作だとみられている。現代語訳すると、こんな感じになる。

「初春の、物事を行うのによい月だ。大気がよく澄んで、風はやわらかくとても気持ちがいい。ウメは鏡の前で女性が付けるおしろいのように咲き誇り、ランはその美女が身に施した香のように薫っている」

平成に代わる元号を求めた『万葉集』は、貴族から農民までさまざまな階級の人々の魂の歌を集めて編纂された。日本人の魂の文学である。

現存する歌集の中で日本最古のもので、全20巻に約4500首の歌が収録されている。歌は種々雑多な雑歌(ぞうか)、死者をいたむ挽歌(ばんか)、男女で詠み合った恋の相聞歌(そうもんか)の3つに分かれている。「令和」の出典元である梅花の歌32首は、雑歌に入る。

序文は漢文だが、歌は漢字の音を使った「万葉仮名」で書かれている。編集は7~8世紀後半とみられ、編者は不明だが、奈良時代の歌人、大伴家持といわれている。一般的には皇族の額田王や歌人の柿本人麻呂らの歌が有名で、一介の農民や防人(さきもり)の詠んだ情緒ある歌も親しまれてきた。