どうすれば人の心を掴むことができるのか。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)を書いた橋本之克さんは「相手の『褒め方』を見直すだけで、人の心を掴むことができる。直接褒めるのではなく、第三者経由で褒めることが大切だ」」という――。(第2回)
相談に乗るビジネスマンの男性
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「君のこと褒めていたよ」と言われるほうが嬉しい

会社員時代、マネジメント力に定評がある同僚のBくんがいました。彼の部署は生産性が高く、コミュニケーションも活発で、彼は上司からも高い評価を得ていました。「自分も見習いたい!」と思い、Bくんの行動を観察してみると、2つの特徴に気がつきました。

1つ目は、「とにかく褒め上手である」こと。「プレゼンの説明がわかりやすかったよ」「資料のつくり方がとても丁寧で使いやすいね」「後輩の面倒見がいいね」など、とにかく部署メンバーの行動や仕事ぶりをしっかり見ているのです。

そして2つ目は、見つけた「褒めポイント」を直接ではなく、「できるだけ第三者経由で伝えている」ことです。私自身も、ある上司から「Bくんが君のことを『チームメンバーへの気配りが素晴らしい』と褒めていたよ」という話を聞いて、なんだかすごく嬉しくなったことがあります。

逆パターンで、Bくんが私の部下について「○○さんは取引先としっかり信頼関係を築けていてすごいね」と褒めてくれたので、本人に伝えたところ、とても喜んでくれた、なんてこともありました。

Bくんは、さまざまなところでこのように上手に人を褒めて、やる気を引き出していたので部下から慕われ、上司からもマネジメント力を評価されていました。直接ではなく、「人づてで褒めたり好意を伝えたりする」というこのやり方、Bくんが意識していたかどうかはわかりませんが、実は行動経済学の心理テクニックなのです。

第三者の情報は「信憑性がある」と感じる

私たちは当事者の発信よりも、利害関係のない第三者から発信された情報を、より強く信じてしまう傾向があります。この心理効果のことを「ウィンザー効果」と言います。

上司や同僚が直接褒めてくれた場合、もちろん嬉しさはありますが、「気を遣ってくれたのかな」「良く思われるためのお世辞かもしれない」などという疑念も生まれたりします。しかし、第三者経由で同じ話を聞くと、「自分以外の人にその話をした」ということは、気遣いやお世辞ではないだろうと思うため、その情報の信ぴょう性が向上するのです。

「ウィンザー効果」のウィンザーとは、アメリカ生まれの作家アーリーン・ロマノネスの小説『伯爵夫人はスパイ』(講談社)の作中に出てくる、ウィンザー伯爵夫人のセリフ「第三者の誉め言葉がどんなときにも一番効果があるのよ、忘れないでね」から取られています。まさにセリフどおりですね。

特に、第三者に当事者との利害関係がない(と思われる)ほど、そして第三者に親近感を覚えているほど、信ぴょう性が高まると言われています。この効果をそのまま活用しているのが、いわゆる「インフルエンサー」です。

自分がフォローしている(=好意や興味を持っている)インフルエンサーは、より身近に感じる第三者です。そのインフルエンサーが何かをおすすめすると、影響を受けてしまうのは言うまでもないでしょう。