※本稿は、プレジデント誌の連載「リーダーの掟」に一部加筆したものです。

肉もごはんもお酒も危ない

タバコが体に悪いというのはおそらく本当のことなのだろう。しかし、それを言うなら、お酒も、肉も白米も健康リスクを高めるというきちんとした医学的根拠がある。

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【お酒】

英国のがん研究所は、アルコールとの関係が特に指摘されているがんの種類として、口腔がん、咽頭がん、食道がん、乳がん、肝臓がん、大腸がんを挙げている。そのリスクは、ワインやビール、蒸留酒などアルコールの種類とは無関係で、飲む量についても「がんに関しては安全な飲酒量などない」と断言している。(ニューズウィーク日本版18年1月9日)

【白米・肉】

・白米には、糖尿病のリスクと正の相関関係がある。つまり、糖尿病になる危険が増す。
・加工肉の摂取量が1日あたり50グラム増えると脳卒中のリスクが13%増加する。赤い肉の場合は、1日あたり100~120グラム増えるごとに脳卒中のリスクが11%上がる。
(津川大介著『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』より)

飲酒が怖いのは、本人が傷つくだけではない。飲酒運転の死亡事故率は飲酒なしの8.4倍にも達している。飲酒は他人の生命を奪うこともある。また、酩酊により攻撃性が増し、暴力事件に直結するケースも。

刑事処分を受けるほどのDV事件で、加害者の約7割が犯行時に飲酒していたというデータもある。受動喫煙の被害は、喫煙者を避けていればある程度防げるが、飲酒運転の車や、酒を飲んで暴れる人を予測して避けるのは不可能だ。

厚生労働省は、健康被害が出ておらず、においもない加熱式タバコの使用場所についても「たばこの健康影響評価専門委員会」で規制を強めている。加熱式タバコ規制賛成派の委員を総数の8割も選んで、無理やり議論の方向性をコントロールしているのだ。どう考えてもタバコばかりは、不公平であろう。

9月下旬、世界保健機関(WHO)は、16年にアルコール依存症など飲酒による健康障害に苦しんでいる成人(15歳以上)が推計2億8300万人に上ったという報告書を発表した。WHOは、タバコ規制の次にアルコール規制に狙いを定めて世界戦略を進めている。世界中の大手酒造メーカーが連携して反対活動を展開しているものの、世界的な潮流は飲酒規制に向かっている。

日本国内では、厚労省が、アルコールの飲みすぎによる社会的損失は年間4兆円以上に達するという研究データを公表済みだ。こちらは08年の数値を基にしているので多少古いのだが、肝臓病やがんなど飲みすぎによる病気やけがの治療に約1兆円、病気や死亡による労働や雇用面での損失が約3兆円だという。

厚労省はまた、タバコの社会的損失についても推計を発表しているが、喫煙と関連するとみられる病気の治療費や、タバコが原因で起きる住宅や山林の火災なども含めて年間約2兆円で、飲酒による損失の約半分だ。タバコが許せないという人が一定数いるのは事実だろうが、社会的損失は、お酒のほうが大きいのである。居酒屋を利用していて、タバコを規制せよなどという人は、はっきり言って、無知なのか、論理破綻を起こしているのかの、どちらかなのである。私が、禁煙運動家を禁煙ファシストと呼ぶ理由もここにある。

私は、総理大臣秘書官だった頃は危機管理上、お酒は飲まなかったが、今は、少し嗜むようになった。お酒を飲まずにはいられない人の気持ちもよくわかる。日本は、他者に対して、もう少し寛容な社会になってほしいと心から願っている。

さて、今回は、東京医大にまつわる男女差別の問題だ。男女差別と言っても問題になるのは、「男性が優遇」されているときだけ。「女性が優遇」されているときは、それを世間では男女差別と言わないらしい。

これまで述べてきたようなタバコの問題もそうなのだが、一方的な価値観で何かを断罪することではなく、現実的に考えて物事は進めてほしいものだと思う。