日産にスワップ取引の損失をかぶせた疑い
特捜が期待に応えてくれた。日本一の捜査機関として讃えられてきたその実力は、まだ廃れてはいない。事件は単純な虚偽記載事件から本筋の私的流用事件に大きく発展した。
今回の「ゴーン逮捕」を知った瞬間に感じたことである。
12月21日、東京地検特捜部が日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の3回目の逮捕に踏み切った。容疑は会社法違反の特別背任(特背)。日産に損害を与えた疑いがあるという実質犯である。
ここで今回の逮捕容疑の中身を説明しておこう。
特捜部の発表などによると、ゴーン氏は自身の資産管理会社と銀行との間でスワップ取引を契約して資産を運用していた。ちなみに外国為替取引で直物為替による売買と同時に反対の先物為替を同じ価格で売買するのがこのスワップ取引だ。デリバティブ(金融派生商品)取引のひとつである。
スワップ取引でゴーン氏に18億5000万円の評価損が発生した。2008年のリーマン・ショックの影響だった。この損失を穴埋めしようと、契約の権利そのものを資産管理会社から日産に移して損失を付け替え、日産に評価損を負担する義務を押させた疑いがある。まずこれが特捜部の指摘する特背容疑のひとつだ。
「日産に損害は生じていない」と逮捕容疑を否認
この損失の付け替えを巡り、証券取引等監視委員会に違法性を指摘され、ゴーン氏は問題の契約権利を資産管理会社に戻した。この際、尽力してくれたサウジアラビアの知人の口座に、日産の連結子会社から計16億3000万円を入金させた。これが日産に損害を与えた特別背任容疑のもうひとつだと特捜部はみている。
泥棒が盗んだものを返したからといって窃盗の罪は消えない。これと同じように契約権利をもとに戻したからといって特背容疑はなくならない。
一連の報道によると、拘留が続くゴーン氏は損失の付け替え行為は認めながらも、「日産に損害は生じていない」と逮捕容疑を否認している。
知人への16億円についても「彼とは業務委託費契約を結んでいる。16億円はその業務委託費で、日産のために支払った」と供述している。