特別背任は「形式犯」ではなく「実質犯」そのものだ
沙鴎一歩はこの連載でこれまで計3本、ゴーン氏に関する記事を書いた。そこで繰り返し主張したのは、「特捜なら実質犯での立件を目指せ」だった。
有価証券報告書に自らの役員報酬(8年で計90億円)を記載していなかったという金融商品取引法違反(虚偽記載)容疑は、日産に実質的な損害を直接与えるものではない。記載したか否かのいわゆる形式犯にすぎない。
その点、今回の特別背任容疑は日産に多額の損害を与えた可能性の高い実質犯である。
3本のうち、最新の12月17日付の記事では、同じ虚偽記載容疑での2回目の逮捕(12月10日)を受けて次のように書いた。
「もはや特捜部は衰退してしまったのか――。これが『ゴーン再逮捕』後の率直な感想である」
「再逮捕の容疑は最初の逮捕と同じ。しかも容疑事実の期間を単に延ばしただけだ。これでは国内外のメディアから批判を受けるのも当然だろう」
「『カルロス・ゴーン』という世界的なカリスマ経営者を刑事立件しようとする意気込みは認める。だが、いくら刑罰が倍に引き上げられたからと言って、再逮捕でまたもや報酬が記載されていないというだけの『形式犯』では実に情けない。追起訴で済むはずだ」
このときの記事のタイトルは「安倍首相のように批判を無視する特捜検察」だった。
「海外メディアの批判にひるむな」と産経
ここでいつものように新聞各紙の社説を覗いてみると、逮捕翌日の産経新聞の社説(主張)=12月22日付=が気になった。
「東京地検特捜部が勝負に打って出たということだろう。法律違反の疑いがあれば、捜査に全力を尽くすのは当然である。海外メディアの批判などにひるむ必要はない」と書き出す。
まるで検察の応援団長のような書きぶりである。見出しも「ゴーン被告再逮捕」「批判恐れず全容の解明を」と特捜部を励ます。「偏った海外の声などには耳を貸す必要などない」と露骨に訴えているようにも受け取れる。
沙鴎一歩の目から見ると、その訴えに余裕や幅、寛容さというものが感じられない。そこが産経社説の大きな落とし穴なのだ。愛読者として実に悲しい。
木で鼻をくくる記者会見はやめるべきだ
産経社説はその後半で「特捜部には今後も、法と証拠に基づく適正な捜査で全容の解明に努めてほしい。それは、海外メディアの批判にも耐えうるものである必要がある」と主張する。
これは正論である。
検察の記者会見にしても欧米の海外メディアの記者たちに対し、木で鼻をくくるように「適正な司法審査を経ている」(久木元伸・東京地検次席検事)と繰り返すのではなく、捜査や今後の公判に支障が生じない範囲できちんと説明すべきである。記者の背後には多くの読者や視聴者、私たち国民がいることを忘れないでほしい。