役員報酬の過少記載容疑で逮捕された日産のカルロス・ゴーン元会長。社員には厳しく成果を求めていたが、自身の報酬を決める根拠は「お手盛り」だった。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は、「日産の役員報酬は算定方法が杜撰。有価証券報告書を読んでも意味がわからない」という。なぜそうした手口が許されてきたのか――。

杜撰すぎる日産の「役員報酬の決定方法」

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が役員報酬を有価証券報告書に過少記載したという容疑で逮捕された事件で、筆者は大きな衝撃を受けると同時に「日産ならあり得る」という印象を抱いた。取材を通じて、日産の役員報酬の決め方には杜撰なところがあると感じていたからだ。

写真=AFP/アフロ

筆者は2014年7月11日の本コラムで「10億続出!報酬基準『役員だけ見える化』しないカラクリ」という記事を書いた。

この記事では、ゴーン氏の役員報酬が、2013年度に9億8800万円で日本企業トップになったことを受け、世間の高額報酬に対する批判などを取り上げた。そのとき強調したのは、単純に金額だけを見て高いか安いかを議論するのはナンセンスであり、肝心なのは報酬額が売上高や収益などの実績とどのように連動するのか、その評価制度やそれに基づく算定方法が社員の納得を得られるものかどうか、ということだった。

2009年に出された、役員報酬の開示を義務づけた改正内閣府令では1億円以上の報酬の個別開示にとどまらず、その報酬額を決定する方針や算定方法などの開示を求めている。

今回問題となった日産の有価証券報告書を検証すると、報酬額こそ違うが、その記載内容は当時からまったく変わっていないことがわかる。

日産自動車の2018年3月期決算の有価証券報告書によると、役員報酬の内訳は「金銭報酬」と「株価連動型インセンティブ受領権」に分かれるが、ゴーン氏の報酬は7億3500万円の金銭報酬しか記載されていない。

「大手外資系企業の役員報酬を参考にして決めています」

そして、その金銭報酬の決め方についてはこう書いている。

「確定額金銭報酬は、平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議により年額29億9000万円以内とされており、その範囲内で、企業報酬のコンサルタント、タワーズワトソン社による大手の多国籍企業の役員報酬のベンチマーク結果を参考に、個々の役員の会社業績に対する貢献により、それぞれの役員報酬が決定される」

曖昧な言い回しだ。筆者には「大手外資系企業の役員報酬を参考にして決めています」と言っているようにしか読めない。

しかも、肝心の「役員報酬の決定方法」に関しては以下の数行しか記載がない。

「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」

何を言っているかよくわからない。確かなのは、ここには報酬額決定の算定方式は示されていないということだ。