多くの企業が30歳以下の「ゆとり世代」とのコミュニケーションに悩んでいる。特徴は失敗することを極度に嫌い、失敗すると自分の非を認めたがらないこと。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「『人あたりがよくて真面目に見えるが、何を考えているかわからない。あの小室圭さんに似ている』という声を聞く」という――。

ゆとり世代と上の世代とのトラブルが頻発している

小中学校でゆとり教育を受けた「ゆとり世代」が、30歳以下の若手社員の大半を占めるようになった。小・中学生の期間のすべてをゆとり教育で過ごした1995~1996年生まれの筋金入りのゆとり世代も2018年から入社している。

最近、企業取材の現場でゆとりと上の世代との間のトラブルをよく耳にする。そうした世代間のギャップは、かつても存在していたが、ゆとり世代の特徴はほかの世代より際立っているように感じる。

たとえば、ある外資系企業がメディアを招いたイベントを開催した際、案内係を担当した広報の女性(25歳)が外国人記者に質問され、事実と異なる答えをしてしまった。上司の30代後半の女性はこう話す。

「込み入った質問は必ず私につなぐように言っておいたのですが、本人は英語に自信を持っていて質問されるままに答えたのです。なぜ私を呼ばなかったのと注意すると『矢継ぎ早に質問されるので私も必死だったのです。質問を遮ると相手に迷惑をかけると思ったのです』と言う。自分が知らないことを話すこと自体がおかしく、軽く叱ると本人はムッとしていましたね。その後、間違いに気づいた記者がカンカンに怒って彼女に電話をしてきたのですが、彼女が『お詫びのメールを送りました』と言ってきました。メールには『お叱りありがとうございます。私への励みと思い、これからもがんばります』と書いている。驚くというより呆れました」

ゆとり女子はおそらく自分なりに最善を尽くそうとしたのだろうが、結果的に間違いを起こした。だが、失敗してもなぜかそれを認めたくないという思いもある。実はこうした特性は他のゆとりにも共通する。小売業の40代の人事部長はこう分析する。

「小さい頃から型にはまった勉強しかしていません。失敗しないように親の庇護の下で塾と学校を往復する生活を送り、大学進学の際も安全圏の大学に絞り、AO入試で入る。大学生活も楽なバイトしかやらず、サークル活動も和気藹々と過ごした温室育ちが多いように思えます。そういう彼ら・彼女らがミスをして『失敗したのは君の責任だ』と言っても、決して認めようとしませんね。失敗することを極端に恐れるところがある。昔は若い頃に失敗を重ねて成長していくパターンでしたが、ゆとりは失敗するかもしれない危ない橋は渡ろうとしません」

「私、失敗したことがありません」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/taa22)

失敗というと、入社面接では「あなたの失敗経験を教えてください」という質問が定番だ。失敗を克服した経験を聞くことで、成長の可能性や伸びしろを確認するのが狙いだが、近年は「私、失敗したことがありません」と答える学生が珍しくないそうだ。

不動産・住宅情報サイト運営会社のシンクタンク、オウチーノ総研がゆとり世代に自身の特徴を聞いた調査がある(対象は2016年に20~28歳の688人)。

それによると1位が「打たれ弱い・失敗を恐れる」の17.0%。次いで「仕事上のつきあいよりプライベートを優先させる」(14.7%)、「スマホ・ケータイ依存」(14.0%)、「ストレス耐性が弱い」(13.7%)、「出世にこだわらない」(13.7%)、「受動的・積極性がない」(11.0%)となっている。

ゆとり自ら「失敗を恐れる」と答えているのは興味深い。この特徴を見ても上の世代との価値観や行動の違いが大きいことがわかる。こうした違いが職場でのコミュニケーションギャップを引き起こしている。

外資系製薬業の教育担当部長はこう語る。

「昔は1を聞いて10を知れとか、先輩の行動をよく見て学べとか言われましたが、今の若い人には通用しません。わからないことがあれば先輩に聞けばいいと思うのですが、聞こうとしないし、聞き上手の若手も少なくなっています。『わからないことがあったら聞けよ』という上司がいますが、彼らはこっちが聞く前に(上司が自分に)教えるのが当然だと思っている。仮に聞いていないことで失敗しても『聞いていないんだからしょうがないですよ』というのが若い人の考え方なのです」