他国から見れば理不尽にしか見えない一連の「トランプ関税」だが、その背景には何があるのか。明治大学政治経済学部教授の飯田泰之さんは、「方法としては全くの誤りだが、トランプ政権は重要な発見にたどり着いた。それは、中間層がいなくなれば欧米的な自由主義国家は維持できず、中間層をつくるためには製造業が必要なのだという、明確な認識だ」という――。
トランプ米大統領 トランプ氏分析を――山田氏
写真=ロイター/共同通信社
関税措置について演説するトランプ米大統領=2025年4月2日、ワシントン

ヴァンス副大統領が描いた世界

今回のいわゆる「トランプ関税」を含め、トランプ政権の経済政策や社会政策を考えるときに重要なのは、ドナルド・トランプ大統領の発言より、J.D.ヴァンス副大統領の著書『ヒルビリー・エレジー』かもしれません。

『ヒルビリー・エレジー』で描かれるのはかつてアメリカの工業生産を支えていた、いわゆる「ラストベルト」地域に住む白人労働者階層です。そして彼らが豊かに暮らしていた時代こそがアメリカが“グレート”だった時代でもある。彼らの支持を受け誕生したトランプ政権が、アメリカ国内の製造業の空洞化を問題視し、それを解決しようとすること自体は、自然なアクションといえるでしょう。

自国内に製造業がなくなることが、なぜ問題なのか。単純化して言えば、安定的な中間層が維持できなくなるからです。製造業は、どんなに機械化されてもある程度の人間が必要です。かつ先進国の工業の場合は熟練を要求する仕事なので、給料の水準もある程度高く、さらに経験によってそれが上昇していく。安定的な賃金とやりがいが、かつてのアメリカにおいて分厚い中間層の生活を支えていたのです。