「デジタルツイン・エンタープライズ」――。それがアクセンチュアのAI活用の根本にある世界観です。企業活動をデータ化してデジタル上に再現し、AIがリアルタイムで現状把握やシミュレーションを行いながら、現実のビジネスを支援していく考え方です。
アクセンチュア常務執行役員、AIセンター長、データ&AIグループ日本統括兼アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括。慶應義塾大学 大学院理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。
この世界観を実現する要諦がAIエージェントです。営業、生産、購買といった専門領域ごとにAIエージェントが存在し、タスクを入力するとエージェント同士が自律的に対話しながら仕事を調整・支援してくれます。アイデアのブラッシュアップや部署間の根回しもAIエージェント同士が下準備を済ませるため、人間は最終確認と意思決定に集中できます。結果として、一人一人がカバーできる領域は確実に広がっています。AIはもはや補助ツールではなく、定型業務においては「実行主体」となる存在なのです。
マーケティング領域では、多様な属性を持つ何万体ものバーチャル消費者を使ったテストマーケティングも実用化しています。新サービスを打ち出したい場合、消費者それぞれの持つニーズを潜在ニーズも含めて、AIが可視化していくことも可能です。後述しますが、AIエージェントの活用は、経営の意思決定領域にまで及んでいます。
「トレーナー」はAIのほうが若手の成長速度が速い
こうしたデジタルツインの世界観を土台として、アクセンチュアでは社員一人一人の日常業務にAIが深く浸透しています。
その象徴が、社員が生成AIのアプリを自発的に自作し、社内に公開できるプラットフォームの存在です。2026年4月時点で全アプリ数は国内で約1万5000、そのうち全社内に公開されているものは約500にのぼります。提案書の自動作成やコーディング支援、業務プロセスの自動化など、日々新しいアプリが登場しています。
そのアプリの一つである「こわいレビュアー」が、若い社員の間で人気を集めています。「きびしいお客様のレビューを事前にシミュレーションしたい」という個人的な悩みから生まれたもので、厳しいフィードバックと改善案を繰り返しながら資料の質を高めていくAIエージェントです。人から批判されると感情的になりがちですが、AIからの指摘は素直に受け止めやすいものです。叱る役割はAIに任せて、褒める役割は人間が担う。人間とAIそれぞれの強みを生かすことが、効果的な活用のポイントです。
コンサルの肝ともいえる提案書の作成にも、生成AIを積極的に活用しています。コンサルタントらしい整理の仕方を学習したAIエージェントが、提案内容に応じた型を提示しながらストーリーを構築してくれます。併せて潜在顧客を含む広範な企業の課題・業界動向があらかじめ収集・整理されており、それらAIが集めた情報と当社が持っている打ち手を組み合わせて提案のストーリーを自動生成し、最終的に40ページ前後の提案書を仕上げてくれるツールもあります。複数人で1カ月ほどかけて作り上げていたものが、あっという間に完成するようになりました。ただし、ポチポチ選ぶだけではいけません。あくまでたたき台として活用し、人間がレビューしたり現場で得た知見を盛り込んだりしてブラッシュアップすることが重要です。
AIは若手の育成にも活用できます。生成AIをトレーナーとして使うと、成長速度が速いという結果が出ています。人間の先輩には聞きにくい質問でも、AIなら気軽に聞けますし、疑問をその場で解消しながら前に進めるため、成長が早いのです。議事録を取ったりリサーチをするような下積み期間を大幅に短縮できるという意味では、新卒社員にとって有利な時代になってきたかもしれません。社内での比較データでも、これまで1つ上の職位の仕事をする成長期間は約3年かかっていたのが、AIを使いこなすことで一気に加速させられると考えられています。
私自身、AIをよく活用するのが未来予測です。顧客とのディスカッションでも、数年先を予測する専門のAIを持ち込んで、業界やその企業の将来について、AIもディスカッションパートナーとして参加させながら会話をしています。クライアント企業の内部情報を用いれば精度は高くなりますが、アクセンチュアの持つ情報と一般に公開されている情報だけでもかなりいい予測ができます。AIは使いながら育てるという側面もあります。あらかじめデータを集めて準備を整えてから使い始めるより、早く使い始めて対話を通じて学習させていくほうが建設的です。人間がAIから学ぶと同時に、人間がAIに教えるサイクルを回すことが、企業としての中長期的な差別化につながります。
AIの活用には、大きく2つの観点があります。一つは「弱点を補う」、もう一つは「能力を拡張する」です。弱点を補うのはわかりやすいですが、能力の拡張という面においては、自分に明確な強みがなければ拡張しようがありません。ゼロに何を掛けてもゼロにしかならないのです。今足りないスキルはAIで補いつつ、自分の強みをさらに伸ばす経験を積むことが大切です。AIが出した結果を見て、「確かにこう言っているが、自分の経験と照らし合わせるとここは違う」と判断できてこそ、本当の意味でAIを使いこなしているといえます。
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