世界一のエアコンメーカーを目指して世界へと舵取りをした矢先、金融危機のあおりで15年ぶりの減益となったダイキン工業。「人を基軸に置いた経営」を掲げ、社長就任以来、一度も人員削減をしたことがないという井上礼之会長は、正社員の雇用を守りつつ、危機をどう乗り切るのか。
――2007年度まで絶好調だった欧州の販売不振とユーロの暴落が最終損益に大きな影響を及ぼしているようですが。
昨年10月ごろから業績は急速に落ち込んできました。08年度の業績を三度下方修正し、正直いって先は見えません。営業利益は昨年同期比53%減、15年ぶりの減益と予想されますが、正直、この2~3月の状況も見えない。当社の売り上げの65%が海外なのですが、円高による減収額だけで、1000億円にものぼっています。
世界的な景気の底打ちは10年の終わりから11年の初めと考えており、それも回復はゆるやかなもので、V字回復は難しいのではないかと思っています。
――そんな現況に立ち向かう戦略とは。
これほど急速に変化する時代に対応するため、短期的な対策を猛烈におし進めています。今はとりあえず、09年の利益創出に向けて全力を尽くす。固定費を削減し、外部流出費用を抑える。例えば、時限立法的に若手社員の海外研修を中止し、海外拠点の駐在員を一時帰国させることでコストを削減します。また、事業の選択と集中をさらに加速させます。
一つは、ヒートポンプやインバータといった環境関連の事業です。例えば、中国最大のエアコンメーカー・格力電器と提携し、価格競争力の高いインバータエアコンを売っていく計画を始動させています。現在中国のエアコンはほとんどノンインバータですが、法規制ができ、これからは環境に優しいインバータが主流となる。今が事業拡大の大きなチャンスです。
欧州では、ヒートポンプ式暖房機の拡販に力を入れます。ヒートポンプは再生可能エネルギー技術として欧州議会で認可されたばかりですが、当社のヒートポンプ温水暖房機は、大不況にもかかわらず、売り上げが3倍増となっている。今後新たに品揃えをして市場に投入する予定です。
米国でもエアコンを買い控える動きが強く、現地メーカーも大規模な人員削減を行っているところです。しかし、買いかえないということはサービスやメンテナンスなどの需要が高まっているということです。ですから、そこは強化していく絶好のチャンスだと捉えています。
BRICs諸国をはじめとした新興国は、多少伸びが鈍化しても成長が止まることはないでしょう。事業拡大はここに集中していきたいと思っています。