英語が達者なフィリピン人の下で働くしかなくなる

このような世界的なエンジニアの「価格高騰」からまったく隔絶されているのが日本。エンジニアも含めて日本人の給料はこの20年間、まったく上がっていない。日本のエンジニアの給料が上がらないのはなぜか。理由の1つは日本独自の雇用慣習にある。日本の企業が学卒を採るときは事務職もエンジニアも大量一括採用して、同じ給料でスタートするわけだ。世界のエンジニアは何ができるかで名札と値札が決まる。「ビッグデータの解析でこんなことができる」とか「こういうゲームのこの部分をつくった」とか「この橋の構造設計をした」とか、どの領域で何ができるのかで名札が付き、マーケットでの値札が決まってくるのだ。

しかし大量一括採用された日本のエンジニアは、会社の人事評価制度の中で遇されてきた。それらの人事給与制度は日本的な平等主義で社員全体の給与を抑える仕組みになっていても、エンジニアの能力や成果に対して正当な報酬を支払うシステムにはなっていない。東芝でフラッシュメモリを発明した舛岡富士雄氏への報奨金はわずか数万円だったという。舛岡氏は発明者が受け取るべき対価として10億円の支払いを求める訴訟を起こして、8700万円で和解している。

国内に安住するエンジニアにも問題がある。日本の企業に就職して、下働きから始まってコーディング(プログラムを書くこと)経験ばかり延々積み上げた結果、40代になってもマネジメントができないエンジニアが多い。それでは給料は上がらないし、コーディングをやる人材なんてフィリピン辺りにごまんといるから、そのうち取って代わられる。エンジニアとして稼ぎたいなら海外に雄飛するべきなのだが、世界で活躍するには語学がパーフェクトでなければならない。

ところが文科省の“偉大な”功績で日本人の多くは語学が圧倒的に苦手だ。どれだけ技術に長けていても語学ができないエンジニアは使われる側に回るしかない。英語で顧客と交渉してスペックを決めたり、英語で仲間を集めて指示したり、プロジェクトマネジメントができるエンジニアは使う側に回れるから稼げる。だからインド人のエンジニアは強い。日本人の場合、英語ができるといってもマネジメントできるレベルではない。フィリピン人のほうがよほど英語は達者だから、そのうち彼らの下で働くしかなくなる。それが日本のエンジニアの現実だ。

近々、ファーウェイは中国勢で初めて日本に最新スマホの生産工場を新設するそうだが、今後も給与レベルを引き上げて、ぜひとも日本の採用市場を引っかき回してもらいたいものだ。日本のエンジニアの給料、日本人の給与体系がどれだけグローバルスタンダードとかけ離れているか、思い知らせてほしい。

18年度の税制改正で年収850万円以上は所得控除額が195万円で打ち切られることになり、年収850万円超のサラリーマンは実質的に増税されることが決まった。年収850万円ということは月額70万円くらい。社会保険や何やと取られて手元には40万円ちょっとしか残らない。それで家のローンを払ったり、子供の教育費を払ったりしたらカツカツという世帯はいくらでもある。生活レベルから見れば、税金を引っぺがされても仕方がないような富裕層ではない。

世界ではエンジニアの初任給が10万ドルになっている時代に、年収850万円超を「稼いでいる」と野蛮に線引きして、取れるところから取ろうとする根性が実にさもしい。近代国家として恥ずかしくないのかといいたい。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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