内定取り消し企業の名前は公表される

私自身、人事コンサルタントという職業でありながら、長年疑問に思っていたことがありました。それは「なぜ、学生が採用内定を辞退するのは自由で、企業が内定を取り消すのはダメなのか」ということです。

たとえば、2009年から職業安定法施行規則が改正され、採用内定取消しの内容が以下の厚生労働大臣の定める場合に該当するときは、厚生労働省が企業名や内容を公表できることになりました。そして、実際に公表された企業も出現しました。

2009年といえば、リーマンショックの直後で、業績の急激な悪化により、多くの企業が雇用調整を余儀なくされた時期です。入社直前になっての内定取り消しも、社会問題となりました。もちろん、この規則定められているような悪質な企業に対しては、厳しい対処が妥当かもしれません。

しかし一方で、どんなに悪質であっても、学生からの内定辞退に対しては、個人情報ということもあり、個人名を公表されるようなことはありません。複数の会社に対して「御社が第一志望です」と言うのは面接のセオリーとしても、内定承諾書や入社誓約書といった書面を提出した後でも、内定辞退は頻繁に行われます。企業側も、一定数の辞退者は想定しているものの、しばしば大幅な読み違いが発生し、採用担当者にとって頭の痛い問題です。

これって、アンフェアなのではないでしょうか?

とはいえ、法律的にもほぼ結論が出ています。

企業が採用内定を提示し、学生が承諾の意思を示した段階で、「労働契約」が成立します。口頭だけだと「言った、言わない」ということがあるかもしれませんので、書面で交していれば証拠も残ります。

学生が重大なウソをついていた、大学を卒業できなかったといったケースを除き、企業側の事情で一方的に取り消すことは契約違反となります。

片や、契約である以上、学生側にも守る義務は発生します。しかし、雇用契約の場合、民法において「いつでも解約の申入れができる」ことになっています。要するに、「一般の社員がいつでも会社を辞められるのだから、内定者が辞退できるのも同じ」ということです。

▼厚生労働大臣が定める場合

[ア]2年度以上連続して行われたもの
[イ]同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの
(内定取消しの対象となった新規学校卒業者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く)
[ウ]事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに、行われたもの
[エ]次のいずれかに該当する事実が確認されたもの
・内定取消しの対象となった新規学校卒業者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
・内定取消しの対象となった新規学校卒業者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき