がんは不治の病ではない。研究の現場を訪ね歩くと、そう感じる。アプローチは1つではない。治療法はあらゆる角度から進化している。研究者たちのほとばしる熱意を感じてほしい──。

現在、使われている抗がん剤は次の2つに大別される。

(1)細胞のDNAや分裂システムを破壊して、細胞を殺すもの
(2)細胞の特定の分子に作用して、細胞の増殖を抑えるもの

このうち、(1)は「殺細胞性抗がん剤」と呼ばれる薬で、従来の無差別攻撃型の抗がん剤を指す。一方の(2)は、この10年で急速に研究が進んだ「分子標的薬」のことだ。

がん化した細胞の中では、正常細胞には見当たらない遺伝子変異がある。分子標的薬は、遺伝子変異で生まれたタンパク質と結合することで、がん細胞の増殖や転移を抑制する。理論上は切れ味がよく、重大な副作用が少ない治療薬である。

2012年に承認された、非小細胞肺がんに適応する「クリゾチニブ(商品名ザーコリ)」が注目株。東京大学の間野博行教授が発見した肺がんの原因遺伝子「ALK融合遺伝子」がつくるタンパク質をターゲットとした薬だ。国際共同治験では、全体の奏功率(がんの縮小率で評価した有効性)で61.2%という効果を示し、さらに日本人の奏功率は93.3%という驚異的な高さだった。日本人に特によく効くという可能性もあるが、日本の医療機関の検査の精度が他の国に比べて高いことも背景にあると考えられる。

当たり前だが、分子標的薬は「標的」を持たないがん細胞には無効だ。「ALK融合遺伝子」を持たない肺がんにクリゾチニブを投与しても効かない。

一方で、ドンピシャの標的分子を持つタイプには高い治療効果が期待できる。最近は無駄打ちを避けるために分子標的薬と標的成分の診断薬をセットで承認するケースが増えている。