日本対がん協会 会長 垣添忠生氏

私は40年以上にわたって、がんの医療や行政、啓発活動に携わってきました。実は私自身も、がんを2度も体験しています。一度目は大腸がんで、いまから12年ほど前のことでした。

当時勤めていた国立がんセンター(現在の国立がん研究センター)では毎年、定期検診がありました。私は前年の便潜血検査に引っかかっていたのですが、多忙を理由に精密検査を受けませんでした。ところが、次の検査でも異常が出た。「これは何かある」と感じて、がんセンターで大腸の内視鏡検査を受けたところ、S状結腸にポリープができていました。

ポリープの多くは良性腫瘍ですが、大きくなってがん化するものもあります。そこで、その場でポリープを3つ摘出し、生検に回しました。そして内視鏡検査から2週間ほどして、「最も大きい1センチメートル超のポリープのなかに、5ミリメートル大のがんがありました」と報告がありました。それが私にとっての「がん告知」でした。幸いなことにがんは検査と同時に取ってしまい、治療もそれで終わりだったのです。

大腸がんは、がんの深達度、まわりのリンパ節や離れた臓器への転移の有無によって、進行度の低い順に0~4期の病期に分類されます。深達度は、がんが腸壁のどこまで達しているかを示したもの。大腸の腸壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という5層構造になっており、深達度が粘膜までなら0期、固有筋層までなら1期、固有筋層を越えていれば2期です。がんが大きくなってリンパ節に転移していれば3期。さらに進行して、肝臓や腹膜、肺などにも遠隔転移を起こすと、末期の4期と診断されます。私の大腸がんは0期でした。

深達度が粘膜下層の浅い部分までで、2センチメートル未満の早期がんは、転移の心配がほとんどなく、内視鏡手術で治療可能です。内視鏡と一緒に小さな手術器具を腸内に入れ、病巣を切り取るのです。私のケースのように、内視鏡検査を兼ねて、病巣を摘出することも少なくありません。ただし術後の検査で、病巣が広がっていたり、悪性度の高い未分化がんだったりすれば、再手術を行う場合もあります。