がん研有明病院乳腺センター長
岩瀬拓士氏

男性も乳がんになることがありますが、極めて少ないため、乳がんは実質的には女性特有のがんといえます。その意味では、男性医師である私が受けたいというより、女性の身内や知人に受けさせたい乳がんの治療についてお話しします。

乳がんの治療は「乳房」「リンパ」「全身」の3つに分けて考える必要があります。「乳房を全部取るなら、抗がん剤治療は必要ないですか」という患者さんがいますが、すべて切除するか部分的に切除するかは乳房に関わることで、抗がん剤治療は全身に関わることです。これらは別問題として考えます。

また、原発巣、つまり最初の乳がんの治療と、再発乳がんの治療とでは、治療に対する考え方が根本的に異なります。原発巣は治すことを目的に治療し、治る確率がかなり高い。とはいえ、治療には副作用や合併症が伴います。乳がんで手術の後、まったく治療をしなかったとして、それでも7割方、治る患者さんがいたとします。さらに、抗がん剤治療を行うと、治る割合が8割5分に高まるのですが、抗がん剤治療を受けるかどうか、患者さんはかなり迷います。

一方、再発乳がんが治るのはかなり難しいといわざるをえません。治療は治すというより、病気をコントロールすることが中心になります。この場合も、何の治療をどこまでするか、患者さん、あるいは医師側も、迷う場面があります。

治療法を決定する場合、医師として重要な要素の一つは「患者の意思をくみ取る」こと。患者さんが「乳房を残したい」とおっしゃるなら、その意向を尊重した治療法を模索します。たとえば、手術の前に抗がん剤治療を行って、病変をできるだけ小さくして、乳房温存手術にしようなどと考えます。

しかし、患者さんの希望をすべて聞き入れるわけではありません。乳房温存手術を強く希望されても、乳房を全部摘出しないと対応できない場合もあるのです。治療法の選択肢だけを提示して、「さぁ、どれにしますか」と、選択を患者にゆだねる医師もいるようですが、決してよい方法には思えません。患者の意向を十分に聞き、医療者からベストの治療法を提示することが大切だと思います。