4タイプに分けて治療法を検討
乳がんの治療法は近年、非常に進歩し、その一つにセンチネルリンパ節生検が広く行われるようになったことがあります。これは最初にがん細胞が流れ着くと思われるリンパ節を調べる検査です。この検査が普及する以前は、手術の際にリンパ節も切除するのが一般的でしたが、腕が腫れるなどの合併症が起きると、QOL(生活の質)が著しく下がってしまいます。検査の結果、リンパ節にがんがなければ、切除しなくてもすみますから、恩恵を受けられる人は大勢いるでしょう。
乳がんの性質がかなりわかるようになったことも大きな進歩です。かつては病変の大きさやリンパ節転移の有無といったがんの進行度を重視していましたが、いまではがんの性質、いわゆる“タチ”を重視するようになりました。がんの大きさが1センチメートル程度でもタチの悪いがんはあるし、3センチメートル以上あってもタチが比較的よく、おとなしいがんもある。タチのよいがんなら、抗がん剤治療はしないで、手術の後はホルモン治療だけでがんをコントロールする選択も可能になります。
そして研究が進んだ結果、乳がんを大きく4つのタイプに分けて考えるようになりました。女性ホルモンとHER2(ハーツー)という遺伝子ががんに関係しているかどうかを調べ、それぞれのあるなしの組み合わせで、4タイプに分けます。タイプごとに治りやすさも違えば、選択すべき治療も違います。ホルモンに関係するがんではホルモン治療を、HER2が関係していればタチがよくないので、抗がん剤とハーセプチンの治療を行います。
こうして見てみると、乳がんの治療は個々人によって異なる「個別化医療」の時代に入りつつあるといえます。病変の大きさや転移の有無だけではなく、その人のがんのタチによっても、治療法を選ぶ時代に入ったのです。
画像検査や病理検査の技術も進歩しました。ひと昔前までは手術前の検査のレベルはかなり低く、手術中に想定外の事態に出くわすことも、まれではありませんでした。しかし、いまではそうしたケースは、少なくとも当院ではほとんどありません。また、手術前には複数の医師で画像をよく見て、がんのある範囲を予想します。そのうえで、実際には予想した範囲よりやや広めに切除します。そうすることで、がんの取りこぼしを防いでいるのです。