東京医療保健大学 副学長
小西敏郎氏

私は、消化器外科医として40年間に約2500例の手術を執刀し、胃がんの手術も数多く手がけてきました。そんな私が胃がんとわかったのは6年ほど前、2007年1月のことです。

当時、私はNTT東日本関東病院副院長・外科部長を務めていて、毎年御用始めの1月4日に人間ドックを受けていました。その年の胃カメラ検査で、担当医と一緒に自分の胃の内部を観察していると、赤くなっている小さな部位がありました。前年にはまったくなかった病変で、その場で一部を採取して生検に回しました。

1週間もしないうちに、病理診断部長から「急いでお話ししたいことがあります」と電話がありました。会議中で「後にして」といって電話を切ると、数分後に、今度は内視鏡部長からも電話がかかってきたのです。「これはただごとじゃない。『がん』だったんだな」と、ピンときました。そのときはさすがに頭の中が真っ白になり、会議の後の電話で3個の生検のうち1個だけががんであったことを確認するまでは、上の空の状態でした。

がんは進行度で病期が決められます。胃がんの病期は、がんの深達度、まわりのリンパ節や遠く離れた臓器への転移の有無によって、進行度の低い順に1.4期に大別されます。深達度というのは、胃壁のどこまでがんが食い込んでいるかということ。胃壁は胃の内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜の5層構造になっています。

リンパ節転移や遠隔転移がなかったとして、がんが粘膜下層までにとどまっていれば1期、漿膜を突き破って隣の臓器にまで広がっていれば3期、といった具合に判定されます。一方、リンパ節転移が多ければ進行度が上がり、肺や肝臓などほかの臓器に転移していれば4期、末期のがんとされます。

胃がんはその進行度によって治療法も変わります。早期であれば内視鏡手術や腹腔鏡手術、切除しても縮小手術(胃を3分の1程度切除)で済みますが、進行するにつれて、胃の全摘手術、さらには胃とまわりの臓器をまとめて摘出する拡大手術と、切除する範囲が大きくなります。それに伴って体へのダメージが増え、合併症や後遺症が起こりやすくなります。進行がんでは、手術に加えて抗がん剤による化学療法も行われます。転移のリスクが大きく、体内に散らばったと推定されるがん細胞を叩いておくためです。