順天堂大学 教授 椎名秀一朗氏

肝臓がんは肝臓から発生した原発性肝臓がんと、肝臓以外の臓器に発生したがんが血流に乗って肝臓にたどり着いて増殖した転移性肝臓がんに分かれます。日本では原発性肝臓がんで死亡する人は肺がん、胃がん、大腸がんに次いで4番目に多く、年間34000人に上ります。原発性肝臓がんの95%は肝細胞から発生する肝細胞がんです。

日本人の肝細胞がんの主な原因は肝炎ウイルスで、患者さんの60~70%がC型肝炎に、10~15%がB型肝炎に罹っています。まず肝炎ウイルスに持続的に感染することで慢性肝炎になります。慢性肝炎に罹った肝臓は炎症と再生を繰り返すなかで線維化という状態が進み、その行きつく先が肝硬変です。その過程で遺伝子変異が起こり、肝炎ウイルス感染から30年程度で肝細胞がんが発生します。

その他の原因として、持続的に多量のアルコールを摂取することで肝細胞が障害を受け、がんが発生することもあります。最近では、多量のアルコールを摂取しなくても、脂肪肝から脂肪肝炎が生じて肝細胞がんになることもわかってきました。

肝細胞がんの主な治療法には、外科手術である肝切除、局所療法(エタノール注入療法や、ラジオ波焼灼術など)、肝動脈塞栓療法、化学療法、放射線療法、肝移植などがあります。また、がんを狙い撃ちする分子標的治療薬も進行例には使われています。

肝細胞がんの患者さんは大部分が肝硬変を合併しているため、がんを根絶やし(根治)にすると同時に、肝機能を低下させない治療を選択する必要があります。外科手術は根治性が高いと認識されていますが、可能なのは20~30%の患者さんだけです。診断時にすでにがんが多発していたり、肝硬変や高齢で外科手術はリスクが大きかったりするためです。手術をしても、実際には1年以内に20~30%、5年以内に70~80%の患者さんでがんが再発します。これは画像診断で捉えられない小さながんが取り残されたり(微小転移)、がんが完全に消失しても肝硬変や慢性肝炎があるために新たにがんが発生したり(異時性多中心性発がん)するためです。