手術中の病理検査で全摘に切り替えも

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意外と知らない乳がんの治療費

これまでお話ししたように、診療の技術はかなり進歩しています。ただ一方では、わからないこともまだ多く、医師が判断に迷う場面もまだあります。

たとえば、ホルモンに関係している乳がんの場合、ホルモン治療に加えて抗がん剤治療を行うかの判断は容易ではありません。オンコタイプDXというがんの遺伝子を調べる検査があって、これを行うと、再発リスクをある程度は知ることができます。リスクが「高い」となれば、抗がん剤治療を行ったほうがよいし、「低い」となれば、行う必要はない。でも「中間」程度の場合は、結局どうするのがよいのかわからず、患者さんの希望を優先して決めるしかないのが現状です。

手術の場合も、微妙な判断を迫られる場面があります。手術を受ける患者さんの多くは、乳房全摘出手術ではなく、乳房温存手術を希望されます。乳房を完全に失うのを避け、少しでも残したいと思うのは当然のお気持ちでしょう。しかし、乳房温存手術でほんとうにいけるか、判断に迷うケースもあるのです。

なかにはMRI検査では温存がOKなのに、超音波検査ではダメというような、検査で結果が異なる場合もあります。そうした場合は、手術の最中に病理検査を行い、その結果で全摘出手術に切り替えることがあります。もちろん、患者さんと事前によく話し合い、許可もあらかじめ得たうえで行いますが、できれば避けたいことです。また、乳房温存手術をしたけれど、手術後の病理検査の結果、予想外にがんの範囲が広く、後日、全摘出、あるいは追加切除の手術をする必要に迫られることもあります。

現在の乳がん治療には、手術、薬物治療、放射線治療、精神的なケアなど、総合的に対処することが求められています。トータルに対応することができて、十分に話し合える医師のいる医療施設を選ぶことも大切でしょう。

がん研有明病院乳腺センター長 岩瀬拓士
1954年生まれ。81年、岐阜大学医学部卒業。89年、癌研究会附属病院外科医員となり、愛知県がんセンター乳腺外科医長を経て、2005年に癌研有明病院レディースセンター乳腺科部長に。11年、有明病院乳腺センター長に就任し、QOLを重視した治療に取り組んでいる。
(平出 浩=構成 加々美義人=撮影)
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