2011年10月、米アップル社の創業者のスティーブ・ジョブズ氏がすい臓がんで亡くなった。圧倒的なカリスマ性でIT界を牽引し続けた経営者の命を奪ったがんという病気は、日本人の死因のトップ(約30%を占める)でもある。そこでまずは、がんについて、老後医療のコストを考えてみたい。もし自分や家族ががんになったら、治療費は一体いくらかかるのか。

国立がん研究センターがん対策情報センターの調査によれば、「年齢階級別がん罹患率」は30~40代では女性が男性よりやや高く、50代に入って男女ともに急増。そして60代以降は女性より男性が顕著に高くなるという結果が出ている。それにもかかわらず、がんの治療費については「かなり高額」な印象こそあるが、正確な金額をイメージできる人は多くない。老後のがんのリスクに賢く備えるには、どう手を打つべきなのか?

「一般的ながんの治療費は平均100万円ほど。早期に発見して健康保険が適用される標準治療だけで済めば、自己負担額は50万円程度で収まることも少なくありません。しかし、それはあくまでも手術・入院前後の費用のこと。実際には手術が成功して無事に退院できても、再発予防や定期検査などで通院を続けなければならず、長期的にがんと付き合っていかざるをえないケースが多いです」

自身も乳がんの告知を受け、今もなお治療を続けているファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは語る。

「もし再発や転移を繰り返せば、数年にわたって抗がん剤などの治療を続けることになり、自己負担の総額が数百万円単位に膨れ上がることもあります。さらに再発のリスクを減らすため、退院後も数年間は通院してホルモン治療などを続けていかねばなりません。がん治療は予後のQOL(生活の質)に関わる費用も含めて、中長期的な資金計画が必要になるんです。年金から食費を削って抗がん剤治療を受けている高齢者も実際にいるほどで、保険のきかない高額な先進治療を受ける場合、『お金の切れ目が命の切れ目』ということも十分ありえます」