しくみが複雑な保険は回避するのが得策

がんに限らず、疾病ごとの治療法、クスリ、期間、病名に個人差が大きくあるが、老後の医療費は平均的にいくらかかるだろうか。総務省「家計調査」によれば、1カ月の保健医療費の支出は1万5725円(07年調査、世帯主60歳以上無職世帯)である。年間18万8700円、平均寿命の82.9歳までに432万1230円かかる計算だ。この数値を見る限り、がんを中心に老後の医療費を見積もっておけばまず間違いはないだろう。

「自分や家族が突然病気に倒れたときに対処するための医療用資金のことを『エマージェンシーファンド』といいます。40歳を超えたら、家族1人あたりに対して100万~300万円のエマージェンシーファンドを用意しておけるかどうかが、老後医療におけるリスクヘッジのひとつの目安です」

と指摘するのは、千葉商科大学大学院教授であり、『58歳からのマネー防衛術』の著者でもあるファイナンシャルプランナーの伊藤宏一氏だ。

「結論からいえば、高齢者の老後医療の備えとしては保険よりも貯蓄のほうが重要です。主な病気の入院費用の自己負担額は、平均して日額1万6000円ほど。それに対して一般的な医療保険の支払額は日額5000~1万円です。1入院あたりの平均期間は大体40日ほどですから、ある程度以上の備えがある人にとっては、保険のメリットはあまり大きくないんです。

まだエマージェンシーファンドがたまっていない若いうちなどは、保険を上手に使うことでリスクを回避できますが、しくみのわかりづらい複雑な保険に長く加入し続けるのは無駄が多いですね。お勧めはどんな病気にも適用できるシンプルな医療保険にだけ加入しておき、貯蓄を増やすこと。将来的にキチンと貯蓄でカバーできるなら、割高な終身タイプの保険を選ぶ必要はありません。特約であれこれ付けたりせず、10年更新の掛け捨てで『自分はこれでいいんだ』と割り切るのが賢い方法です」