働き続ける高齢者の実態はどのようなものか。『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)を出したジャーナリストの若月澪子さんは「ある地方の新聞販売店の配達員はほぼ全員が60〜70代で、取材した60代前半の男性は『自分は若いほう』だと語ってくれた」という――。

歯を2本折り、顔を7針も縫うケガ

2024年6月、新聞業界に激震が走った。

新聞を印刷する輪転機を製造していた三菱重工機械システムが、今後の注文と見積もりの受付停止を発表したのである。新聞を刷る機械そのものが消える……。新聞の販売部数の減少が主な要因だ。

一方で今、現場で深刻さを増しているのが、新聞配達員の人手不足と高齢化である。現在、新聞配達の主力メンバーは、外国人留学生やシニアだ。

しかし、新聞配達はシニアにはリスクの高い仕事である。配達中の新聞配達員が車などと接触する死亡事故は、たびたび報道されている。ここ数カ月以内に起こった事故だけを見ても、被害者はほとんど65歳以上。暗い夜道をバイクで移動するため、視力や判断力の衰えが影響していると考えられる。

「新聞配達中にバイクで崖から落ちて、歯を2本折り、顔を7針も縫うケガをしました。この日はちょっと多めに130軒の配達を任されていた。ちょうど50軒目あたりを配達し終えた時、曲がる方向を間違えて」

長崎県在住のNさん(61歳)は、6年ほど前から新聞配達をしている。白髪交じりの髪に眼鏡、ノーブランドのウィンドブレーカーに身を包む、素朴な雰囲気の中高年男性だ。山登りが趣味というNさんは、どこか土の匂いがする。

朝2時起きで働き、月収は約9万円

Nさんは筆者が取材を申し込んだ一週間前に、新聞配達中に事故に遭ったという。顔には唇から鼻にかけて痛々しい傷痕。インタビューの日程を変えようかと申し出たが、「配達を休んでいるから暇です」と言って応じてくれた。

「配達用バイクは崖の途中に引っかかって廃車です。新聞は血まみれになって周囲に散乱していた。朦朧もうろうとしながらスマホを取り出し、新聞販売店に電話したら、15分くらいで救急車が来てくれた。その後のことはよく覚えていないが、入院はしないで済みました」

とはいえ事故直後は地面に血だまりができ、顔は腫れ上がるほどの大怪我。しかし、手足は打撲で済んだため、Nさんは週明けから配達を再開するという。

Nさんの休業中、新聞は他の配達員が朝8時くらいまでかかって配達している。現場はシニアが一人でも欠けると回らないのだ。

「私の勤める新聞販売店の配達員は、ほぼ全員が60〜70代。60代前半の自分は若いほうです」

平日は朝2時起き、3時〜5時半までの2時間半、自宅から半径5キロ範囲を配達する。70代が任される部数は30部ほどというが、「主力」のNさんの配布数はおよそ100部だ。

時給は長崎県の準夜勤の最低賃金で1100円ほど。1日3000円、月収はおよそ9万円。

1万円紙幣
写真=iStock.com/Zhang Rong
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