80年代以降、格差が再び拡大している
フランスの経済学者トマ・ピケティは、1993年に弱冠22歳で発表した博士論文『富の再配分の理論についての考察』以来、格差研究の第一人者とされてきた。
そのピケティが各国経済学者の協力を得て、欧米・日本を含む先進諸国の所得格差の歴史的な推移を実証データから明らかにしたのが、『Le capital au XXIe siecle(21世紀の資本論)』である。2014年4月、英訳が米国で発売されるや書籍売り上げランキングのトップを独走、一躍世界的な注目を浴びた。
世界の先進国における所得と資産の格差は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて拡大し、第一次世界大戦から70年代までの間に縮小した。しかし80年代以降、格差が再び拡大している――これが同書の結論だ。先進国の中でも、英米をはじめアングロサクソン諸国における近年の経済格差拡大は顕著だとする。
1910年の米国では上位10%の富裕層が国全体の富の80%を占め、上位10%の所得階層が国全体の所得の約50%を占めていた。第二次世界大戦後にそれが、それぞれ60%、30%に下がったが、2010年には逆に70%、50%へと戦前なみに上昇している。
この格差拡大の原因を、ピケティは2つの法則を用いて説明している(図参照)。第一の法則は、
α= r × β
である。αは資本分配率、rは資本収益率、βは資本対所得比を意味する。所得には資本所得と労働所得があり、資本分配率とは、そのうちの資本所得の割合を示している。資本収益率とは、投下した資本から一定期間にどれだけの利益を挙げられるかを示す。資本対所得比とは、一国内の所得の総計を示す国内総生産(GDP)に対する、国民全体が持つ資産(国民資産)の割合である。
資本収益率が一定である場合、資本対所得比が高いほど、利息、配当、賃料などの資本を運用して得られる資本所得が、働いて得られる労働所得に比べて大きくなる。それがこの等式の意味するところである。