古川拓生(筑波大学ラグビー部監督)

ふるかわ・たくお●1968年生まれ。山口県・大津高校を経て筑波大学に進学。92年に卒業後、同大学院に進学し、94年体育研究科健康教育学修了。その後2003年まで鹿屋体育大学に勤務。ラグビー部のポジションはCTB。鹿屋体育大学、筑波大学とラグビー部を指導。日本代表スタッフの経験も持つ。2013年より筑波大学体育系の准教授。

残り6分で13点差を覆す逆転勝ちで、2年ぶりの決勝進出を決めた。ラグビーの全国大学選手権の準決勝。筑波大の古川拓生監督は珍しく、興奮気味だった。

「選手ひとり、ひとりがよくやってくれた。80分間、最後まで、自分を信じて、やり切ってくれたことが、大逆転につながった」

筑波大学の体育系の准教授らしく、理論派でとおる。ラグビーコーチングにも長け、接点ひとつとっても、からだの向きや頭の入り方、腕の使い方、次にどう動けば効率的かを考え、丁寧に、その反復練習を繰り返す。

ラグビーのゲーム構造などを検証し、「勝つ」ための戦術やスキルについても、とことん考える。勝負のポイントはどこか。準決勝の東海大戦。過去の大学選手権3試合いずれも終盤にもつれたとみるや、試合前夜、その3試合のラスト20分の映像を見せて、「接戦の覚悟を持って臨め」と学生に伝えた。

とくに学生が自分で考えること、あきらめない心、集中力を大切にする。古川監督は練習でよく、「失敗から学ぼう」と口にする。

「失敗したことに対し、ちゃんと話をしていくことが大事です。同じ失敗は繰り返さない。選手だけでなく、スタッフもそう。だいたいスタッフは選手より長くチームにいるので、過去にあった筑波の失敗を話し合うようにしています。その辺の向き合い方が、大事かなとも思います」

山口・大津高から筑波大に進み、CTBとして活躍した。大学卒業後、研究者の道に入り、鹿屋体育大学を経て、2003年4月から筑波大の講師、13年から同大学の准教授となった。ラグビー部の躍進は、古川監督の好指導抜きには語れない。

トップリーグ並みの環境がそろう強豪大学と違って、筑波大には寮も、ない。好素材こそ集まってきたが、古川監督は「学生主体」を尊び、チームの成長を促してきた。

10日の決勝戦の相手は、大学選手権6連覇を狙う王者・帝京大である。下馬評は「帝京、絶対有利」。が勝負に絶対は、ない。古川監督は言う。

「帝京はほんとうの強さがあるチーム。でもすべての時間で負けるとは思っていない。ゲームの頭で何かが起これば……」

即ち、試合の入りがポイントだと言うのである。かつて、ことしの4年生は「何か」を持っていると漏らしたことがある。

「春よりは夏、夏よりも秋、そして冬と、チームとして成長している。集中力もどんどん高まってきた。さらなる選手の成長を信じたいし、期待したい」

国立大学が奇跡を起こすか。時に若者は我らの想像をイッキに超える時がある。46歳の静かなる指導者は、人間の成長と壮大なるチャレンジを楽しんでいる。

(松瀬 学=撮影)
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