古川拓生(筑波大学ラグビー部監督)
残り6分で13点差を覆す逆転勝ちで、2年ぶりの決勝進出を決めた。ラグビーの全国大学選手権の準決勝。筑波大の古川拓生監督は珍しく、興奮気味だった。
「選手ひとり、ひとりがよくやってくれた。80分間、最後まで、自分を信じて、やり切ってくれたことが、大逆転につながった」
筑波大学の体育系の准教授らしく、理論派でとおる。ラグビーコーチングにも長け、接点ひとつとっても、からだの向きや頭の入り方、腕の使い方、次にどう動けば効率的かを考え、丁寧に、その反復練習を繰り返す。
ラグビーのゲーム構造などを検証し、「勝つ」ための戦術やスキルについても、とことん考える。勝負のポイントはどこか。準決勝の東海大戦。過去の大学選手権3試合いずれも終盤にもつれたとみるや、試合前夜、その3試合のラスト20分の映像を見せて、「接戦の覚悟を持って臨め」と学生に伝えた。
とくに学生が自分で考えること、あきらめない心、集中力を大切にする。古川監督は練習でよく、「失敗から学ぼう」と口にする。
「失敗したことに対し、ちゃんと話をしていくことが大事です。同じ失敗は繰り返さない。選手だけでなく、スタッフもそう。だいたいスタッフは選手より長くチームにいるので、過去にあった筑波の失敗を話し合うようにしています。その辺の向き合い方が、大事かなとも思います」
山口・大津高から筑波大に進み、CTBとして活躍した。大学卒業後、研究者の道に入り、鹿屋体育大学を経て、2003年4月から筑波大の講師、13年から同大学の准教授となった。ラグビー部の躍進は、古川監督の好指導抜きには語れない。
トップリーグ並みの環境がそろう強豪大学と違って、筑波大には寮も、ない。好素材こそ集まってきたが、古川監督は「学生主体」を尊び、チームの成長を促してきた。
10日の決勝戦の相手は、大学選手権6連覇を狙う王者・帝京大である。下馬評は「帝京、絶対有利」。が勝負に絶対は、ない。古川監督は言う。
「帝京はほんとうの強さがあるチーム。でもすべての時間で負けるとは思っていない。ゲームの頭で何かが起これば……」
即ち、試合の入りがポイントだと言うのである。かつて、ことしの4年生は「何か」を持っていると漏らしたことがある。
「春よりは夏、夏よりも秋、そして冬と、チームとして成長している。集中力もどんどん高まってきた。さらなる選手の成長を信じたいし、期待したい」
国立大学が奇跡を起こすか。時に若者は我らの想像をイッキに超える時がある。46歳の静かなる指導者は、人間の成長と壮大なるチャレンジを楽しんでいる。