三浦健博(釜石シーウェイブスヘッドコーチ)

みうら・たけひろ●1976年、岩手県大槌町生まれ。釜石工業高校(現・釜石商工高校)卒業後、新日本製鉄(現・新日鉄住金)の釜石製鉄所に入社。新日鉄釜石ラグビー部に入部した。主にロックとして活躍し、2001年のクラブ化後も選手、選手兼コーチを経て13年から専任コーチを務めた。14年、ヘッドコーチに就任。

震災復興のシンボル、ラグビーの釜石シーウェイブス(SW)のヘッドコーチ(HC)はチーム生え抜きの「リアル鉄人」である。三浦健博、38歳。健博は「たけひろ」と読む。東北の、凍てつく釜石のグラウンドに立ち、あれこれ小理屈を言う選手に向かって、ぼそっと漏らす。

「いいから、やっぺし」

釜石の方言で、「いいから、やるぞ」という意味だろう。失敗しても構わない。とにかく、やってみないとわからない。やっては、修正し、前に進んでいくしかないのだ。

「もちろん、考えてプレーしてほしいけど、こうなったらどうなる、ああなると、迷っていても仕方ない。からだを動かすこと、チャレンジが大事です。まずはやってみようと言いたいんです」

三浦は、被災地の岩手県大槌町出身。釜石工高(現・釜石商工高)卒業後の1995年、新日鉄釜石ラグビー部に入部した。情熱と献身の塊のようなロックで、チームメイトから「リアル鉄人」と呼ばれ畏怖されてきた。昨年、現役を引退し、ことし1月、釜石SWのヘッドコーチに就任した。

もちろん輝かしい伝統を持つチームゆえの重圧もあった。だからこそ、「自然体」を意識してきた。

「責任も重いと思うけど、あまり硬く考えず、自然体でやっていこうと思いました。もちろん妥協はしない。ひたむきにやろうと、グラウンドに出れば、言い続けています」

昨年より戦力が整備され、個人もチームも強化された。とくにディフェンンス。今シーズンは、しつこく、激しいタックルで、何度もゴール前の窮地をしのいできた。

チームが所属するトップイースト・リーグでは今季2位となり、上部のトップリーグ(TL)昇格につながるトップチャレンジ2に進出した。14日。トップウエスト2位の大阪府警に逆転勝ちした。次のトップキュウシュウ2位の中国電力に勝てば、トップチャレンジに進出することができる。

TL昇格の可能性は小さいけれど、ゼロではない。三浦HCは正直だ。

「TLに上がるためには、もう少しFWの強さが必要です。ディフェンスがよくはなったけれど、バックスの決定力がもっと必要だと思う。もっと、もっと強くなりたいですね」

釜石SWは幸せなチームである。全国のラグビーファンから親しまれ、試合ともなれば、どのスタジアムであっても、100人、200人の応援団が駆けつける。大漁旗のフライ旗が振られ、大声の声援を受けるのだった。

「釜石のチームは特別なチームなんです」。寡黙、哀愁、男のやさしさ……。男が惚れる男の三浦HCが説明する。

「東北や全国各地、どの地域にいっても、多くの応援をいただくチームなんです。特別だから、責任も重大だと思っています」

そういえば、本拠地の釜石市は2019年ワールドカップ(W杯)の試合会場に立候補している。招致のための街の盛り上がりを考えると、釜石SWがTLに昇格をするのが一番のメッセージだろう。

「自分たちとしては何より、トップリーグに上がることを最大の目標としています。その部分でまず、釜石に貢献できれば、最善かと思っています」

師走上旬の秩父宮ラグビー場での試合では、試合後、秩父宮ラグビー場の場外エリアで、寒風吹く中、ざっと150人の応援団から、アツい「釜石コール」を受けた。

三浦HCは深々と頭を下げ、こわばった顔で声を張り上げた。

「応援、ありがとうございます。次の目標はまず、お正月にラグビーをすること。1試合1試合勝って、また、お正月に釜石のラグビーを見せたいと思います」

ひたむきに。ひとつずつ。ファンとともに。無骨な三浦HCは「TL昇格」の初夢を追うのである。

(松瀬 学=撮影)
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