穴井隆将(2020年東京五輪パラリンピック組織委員会アスリート委員、天理大柔道部監督)
2020年東京五輪パラリンピック大会のウリのひとつが「選手本位の大会」である。同組織委のアスリート委員会が1月19日開かれ、若手アスリートを社会貢献などに参加させるプロジェクトを採択した。
東京都新宿区の某ホテル。ちょっぴり疲れた表情で、会議室から出てきたのが、天理大学柔道部の穴井隆将監督である。ご承知、柔道の元世界チャンピオン。
「こういった会議は緊張しますね」と、穴井は苦笑する。柔道着ではなく、シャキッとしたスーツ姿。全日本柔道連盟のアスリート委員会の委員も務める30歳はいつも実直、生真面目である。
「こちら(東京五輪パラ組織委)で決まったことは全柔連に持ち帰り、また柔道選手の意見もこちらで反映させていきたい。柔道と東京五輪組織委の橋渡し役ができればいいなと思っています」
年が明け、東京五輪パラ開催まであと、5年となった。「もう、5年しかないんだ」と気を引き締める。
「学生の育成もそうですし、柔道の強化もそう、何かの事業をするにしても、組織委とタイアップしていきたい。自国開催は、選手にとって、すごくいいことだと思います。励みにもなるし、目標にもなります」
大分県大分市出身。5歳の時に地元で柔道を始め、中学、天理高校の柔道部で活躍した。天理大学へ進学し、数々の学生タイトルや国内タイトルを奪取した。
2010年に東京で開催された世界選手権で優勝した。12年ロンドン五輪では2回戦で不覚をとったが、現役最後の試合となった13年4月の全日本選手権では優勝を果たした。
引退後は指導者の道に進み、現在は天理大柔道部の監督。「自分ができることは、だれにもできると思わない」ことを肝に銘じている。
「自分ができるから、こう言えばわかるんじゃないかとか、これもできて当然だといった感覚じゃなく、その子がどういう視点で柔道をみているのかを大事にしています。技術にしても、精神論にしても、その選手の立場に立って考える。それを見失うと、我が道だけを行って、大変なことになると思います」
ただいま、指導の難しさ、オモシロさを味わっている。まずは天理大で「団体日本一になりたい」と語気を強める。
「選手を育てる立場は大変ですが、オモシロい。やりがいがあります。自分がやってきたことを人に伝えるわけですから、自分の失敗もちゃんと教えるようにしています。学生に同じ失敗をさせたくない」
柔道部の監督として、あるいは全柔連、東京五輪パラ組織委のアスリート委員として、全力投球の毎日である。今年の抱負を漢字一文字で表すとすれば、と聞けば、穴井監督は「全力の全で」と即答した。
「すべてをまっとうする。ことしは、すべてを全力でまっとうしたい」
顔は随分とやさしくなった。柔道の元世界王者は誠実で柔軟、でも若いアスリートにかける情熱は熱いのである。