王子谷剛志(全日本柔道選手権2014年覇者)
186cm、137kgの東海大主将が、100人余の部員たちの手で宙に舞う。全日本選手権を制した21歳の王子谷剛志。もう顔はくしゃくしゃ、細い目がさらに細くなる。
「いろんな記事を読んでも、自分の名前が優勝候補にまったく挙げられていなかった。悔しかった。見返してやるんだ、という強い気持ちを持って試合をしました」
東海大4年生。3年前の初出場の時は「若い」ということで話題にされた。でも、年を重ねるにつれて、「結果を出すことが大事になってきました」という。
決勝戦。スタミナには自信がある。粘って、粘って、ロンドン五輪代表の上川大樹に得意の大外刈りで一本勝ちした。
「辛抱強くやる作戦でした。自分のカタチで勝負ができました。きついこととか苦しいこととかをやってきて、ひとつの目標を達成できたのがうれしいです」
小学校1年生の時、大阪府警に勤める父の影響を受け、柔道を始めた。父からシドニー五輪金メダルの井上康生・現日本代表監督の試合の映像を何十回も見せられ、内またなどの技の切れに憧れてきた。東海大勢としては、井上監督以来11年ぶりの日本一となった。
「歴史を受け継ぐことができました」とはにかみながら、新王者はコトバを足す。
「僕はまだ1回、タイトルをとっただけです。井上先生は3回、山下(泰裕)先生も9連覇をされています。まだ、まだ、です」
努力家で通る。子どもの頃は不器用で、前まわりや受け身ができなかった。家で布団を敷いて、何度も受け身の練習をしていたという。小学校の時は払い腰を得意としていたが、東海大相模中学に入った時、監督から、「払い腰では世界に通用しない。これから6年間は大外刈りを磨きなさい」と言われ、素直に大外刈り一本でやってきた。
「中学に入った時は、“こんな名門に入って柔道ができるのかな”と思うくらいに弱かった。でも毎日、先輩に返されても、稽古では大外刈りを掛け続けてきました。そのうち、“自分は強くなれるんだ”という気持ちが出てきたのです」
中学3年生の時、全国中学生大会で3位となり、東海大相模高校3年の時にはインターハイ(全国高校総合体育大会)の個人戦で優勝した。世界ジュニア選手権も制覇した。
どちらかといえば、おっとり型。優し過ぎる性格が災いして伸び悩んでいたが、主将に指名されて人間が変わった。責任感ゆえか、より積極的となった。激しさも出てきた。
「王子」には早いから、あだなで「玉子谷」と呼ばれていた。これでタマゴの殻が破れ、自信をつけそうだ。
「全日本チャンピオンという自覚を持って、やっていきたい。1つ1つ、勝っていくことが大事。(リオ五輪は)子どもの頃からの憧れだったので、出場して金メダルをとりたいと思います」
欲も出た。まだ21歳。2年後のリオ五輪に向け、楽しみな「プリンス(王子)」が誕生した。