米満達弘(ロンドン五輪レスリング男子フリースタイル66キロ級金メダル)
ロンドン五輪の最終日、閉会式を前に快挙をやってのけた。フリースタイル男子66キロ級で優勝し、日本男子レスリング界に24年ぶりに金メダルをもたらした。
優勝がきまると、日の丸を持ってマットを一周、回った。くるくるっと飛び回りながら。米満は喜びを吐露した。「もう夢みたいです。(金メダルを)取るのが目的だったけれど、取れるとは思っていなかった。どんなに実力があっても、本当にその日の調子によってレスリングが変わる」。そして、本音をこぼした。「自分の金メダルも、実力プラス運がないと絶対、取ることができなかった」
対戦相手に恵まれた。嫌な相手が姿を消していく。決勝はクマール(インド)。のちにわかるのだが、体調を崩していた。動きのスピード、組手で圧倒する。タックルは冴えている。「ひたすら前に出て、攻めていこう」と決めていた。第1ピリオド。相手の右足をとって後ろに回り、ポイントを奪取。第2ピリオドでは潜り込んで、両足タックルに成功し、豪華に相手をマットにたたきつけた。
自信が満ちたレスリングだった。「世界に相手はいない」。ビッグマウスと言われながら、五輪で証明してみせた。「有言実行」の男である。山梨県出身。韮崎工業高校でレスリングを始めて10年。ジュニアからレスリングを始める選手が多い中では、珍しいパターンだった。どうだ、とばかりに米満は口を開く。
「高校からでも金メダルを取れることを証明できた。非常識なことをやりたかった。不可能を可能にしたいんです」
表彰式後の記者会見。「金メダルを取った直後はうれしかったけど、満足はしていない。次は何をしようかな。(五輪)2連覇はもちろんですが……」。幾重にも囲む記者を見回し、子どもっぽい無邪気な笑顔を浮かべた。「(憧れの)ブルース・リーや宮本武蔵にちょっとだけ近づけたかな」と言って、周囲を笑わせた。