大八木淳史(元ラグビー日本代表)
56年の歴史に幕を閉じる東京・国立競技場で、往年のラグビーの名選手たちがプレーした。5月25日の『SAYONARA国立』イベントのひとつ、「夢・笑顔・感動 ドリームマッチ」のドリームズ・チームである。
ノーサイド寸前、トライを決めたのが、かつて日本代表FWの核として活躍した大八木淳史さんである。京都・伏見工高校から同志社大学―神戸製鋼に進んだ52歳。大きな体で豪快にインゴールの芝生に飛び込んだ。
大八木さんは明るく言い放つ。
「最後の締めは、大八木淳史で終わっとかなあかんでしょ」
でも、と笑って言葉を足す。
「現役のプレーヤーには悪いなと思います。1年間、何にも練習をしてこなかったやつが過去の栄光でぽっと来てプレーする。きちっとセレクトされた日本代表のメンバーが、いろんな思いを持って、ここでは戦うべきでしょう。林(敏之)さん、大八木が、昔の名前で出ています。これは非常に心苦しいですが、ま、感謝しております」
国立競技場は思い出深い、と大八木さん。数多くの試合に出場したが、「一番は同志社大1年生の時に釜石さんとやった時かな」という。1981(昭和56)年1月15日の同大×新日鉄釜石。同大が健闘しながらも、3-10で社会人王者に惜敗した。
「ここ(国立)の独特なオーバルな感じがいいのです。トラックをはさんだお客さんとの微妙な距離感も心地よかった。6万人ぐらいのお客さんが入ったら、歓声がスタジアム全体で共鳴して、それを肌に感じるのです」
その国立競技場も7月から壊され、2019年ラグビーワールドカップ(W杯)、20年東京五輪オリンピックに向けて、新しいスタジアムが建てられる。
「ラグビーだけでなく、他のスポーツもそうですけど、ルールも制度もどんどん進化していきます。スタジアムも新しく生まれ変わるのは、しょうがないことでしょ」
京都市出身。大八木さんもまた、現役引退後、進化してきた。同大大学院で学び、高校のラグビー部ゼネラルマネジャー、大学の客員教授に就任。ラグビーのコメンテーターやタレントとして、あるいは教育者や学校法人の校長として、幅広く、エネルギッシュに活動を続けている。
「出会いに感謝」がモットーである。
「すべてに感謝ということです。生きているということは、そういうことでしょ。いいことも、悪いこともありますが、人間同士の出会いが何より大切なのです。ラグビーとの出会いもそう、五感に感じるすべての出会いに、僕は感謝しているのです」
人もスタジアムも進化する。新たな国立競技場は、19年ラグビーW杯日本大会の舞台にもなる。
「新しい国立の“こけら落とし”もワールドカップとなります。ラグビーのOBとして、よかったなあと思います。もっともっといいスタジアムになることを期待しています」
新国立ではどんな出会いがあるのか。そう言うと、大八木さんは幸せそうな笑顔を浮かべるのだった。