竹村吉昭(JSS競泳コーチ)
「竹村マジック」といったら言い過ぎか。日本女子競泳陣のホープ、平泳ぎの渡部香生子(JSS立石)を復活させ、先の日本選手権で『三冠』に導いた。
その竹村昭吉コーチが、プールサイドで笑顔を振りまく。
「選手が思うように走ってくれました。十分満足できる。100点満点に近い大会だったと思います」
渡部といえば、中学3年生の時、『ロンドン五輪の星』として騒がれた(結果は200m平泳ぎで準決勝敗退)。だが昨年は不振にあえぎ、日本選手権では得意の200m平泳ぎで世界選手権代表の座を逃した。
直後、コーチに就いたのが、竹村昭吉コーチである。就任当初、渡部の練習態度は不安定だった。ムラっ気があって、つらいとやる気をなくす時がある。すぐ表情に出るため、練習の雰囲気が悪くなる時もあった。
竹村コーチはタイミングを見て、渡部によく、こう諭した。
「つらい時こそ笑顔でいよう。しっかりと練習ができていれば、ちゃんと結果はついてくるから」
竹村コーチは合宿の朝食の時、あるいは散歩の時、積極的にコミュニケーションをとった。渡部によると、「コーチはやさしいですし、やる時はしっかりやるといった感じです。笑いもある。メリハリがあるのです」という。
竹村コーチの指導を受けて1年、渡部は体力も精神面もたくましくなった。なんといっても笑顔が増えた。明るくなった。日本選手権では、100m平泳ぎ、200m平泳ぎに高校新記録で優勝し、200m個人メドレーも会心の勝利を収めた。
京都府出身の58歳。サッカーの選手だったが、就職情報誌で「ジェイエスエス(JSS)」の求人情報を見つけて入社、競泳のコーチをすることになった。以後、研さんと努力を重ね、JSS長岡では2000年シドニー五輪100m背泳ぎ銀メダルの中村真衣さんらを育てた。
メガネの奥の温厚そうな目、やわらかい物腰、まず声を荒げることはない。口ひげがあって、コンピューターゲームのキャラクター「マリオ」に風ぼうがどこか似ている。
「自分がやっていたサッカーは、練習から楽しい。でも水泳はそうじゃない。よくプールでいったりきたりしているな、とほんと思います。僕はできないなあ。ははは」
だから、どうせやるなら楽しくやってほしいと願う。工夫する。モットーが『継続は力なり』。続けていれば必ず、いいことがある、と信じている。
「できれば、楽しく継続です。イヤな思いで練習をやるのではなく、ちょっとでもいい気持ちでやってほしい。苦しいことを楽しくしてほしいのです」
一流の指導者になるためには、「一流だと思わないこと」という。つまり謙虚さと努力を怠らないということだろう。
選手のステキな笑顔を見るため、竹村コーチもまた、笑顔で走り続けるのである。