寺川 綾(ロンドン五輪競泳女子銅メダル)
涙はない。美人スイマーの代表格。ロンドン五輪競泳女子100m背泳ぎとメドレーリレーで銅メダルを獲得した寺川綾が、「選手生活を卒業します」と現役引退を表明した。笑顔をふりまく。
「ここまでやってこられたので、悲しさはほとんどありません。すっきりした気持ちです。たくさんの人から、『笑っている寺川さんが大好きです』と言われていたので、絶対に泣いちゃいけないなと思っていました」
6月に右足首関節の故障が悪化して、満足な練習をできなかった。「ねずみ(遊離軟骨)が関節に詰まって、試合中に痛いことがありました」。100%の力で練習や大会でのパフォーマンスができず、自分を許せなかったから、と引退を決意した。
それでも、ことし7月の世界選手権(バルセロナ)では50m、100m背泳ぎで銅メダルを獲得した。日本記録も更新した。トップスイマーのまま、競技生活の第一線を退くことになる。
「たくさんの人に応援していただきました。そういった方々に『もったいないよ』と言われて、最後を迎えることができてよかったと思います」
大阪府生まれ。3歳から水泳をはじめ、16歳の高校2年で2001年世界選手権(福岡)に日本代表として初出場した。04年アテネ五輪は出場したけれど、08年北京五輪では代表選考会で敗退した。「これまでで一番つらかったのは、北京オリンピックを家で見ている時でした」と漏らす。
「山あり谷ありの水泳人生でした。つらいことも、辞めようかなと思ったこともありました。あきらめることは簡単です。水泳を続けることがどれだけ大変か……。でも、あきらめるのは、まだ早いんじゃないか、まだ早いんじゃないか、と思い続けて、ここまでがんばってきたのです」
29歳。水泳人生で得たのは、「人とのつながり」という。コーチに恵まれ、水泳仲間に助けられ、ファンに励まされた。「幸せな水泳生活を送ることができました」とは言葉に実感を込めた。
水泳は楽しいものでしたか? と問われると、笑顔で何度もうなずいた。
「“ものでした”じゃなく、楽しいものです。これからも水泳は続きます。選手じゃなくても、一生、泳ぐと思います」
結婚の予定は、「いまのところありません」と照れた。今後はミズノに残り、水泳の普及活動などに取り組んでいくという。2020年東京五輪もやってくる。
「水泳の楽しさという部分を伝えていければいいなと思っています」
美人スイマーは、笑顔で、水泳を子どもたちに指導していくことになる。