中道 瞳(バレーボール女子日本代表セッター)
ロンドン五輪で銅メダルを獲得したバレーボールの日本代表女子のセッターである。いつも全力投球。159センチのからだには覇気がみなぎる。「目標は世界一」と、中道瞳は言い切るのだ。
「今までのバレーでは世界一になれなかった。だから、新しい戦術を試しています。(世界ランキング1位の)ブラジルと一緒のことをやっても、ブラジルには勝てません。何かを変えていかないといけないのです」
昨年のロンドン五輪では、控えのセッターとしてベンチに入った。メダルの岐路となった準々決勝ではピンチサーバーとしてコートに入り、値千金のサービスエースで勝利に貢献した。28歳。引退した竹下佳江から、エースセッターの座を引き継いだ。
元セッターの眞鍋政義監督の考えを極力、理解しようと努めている。小さい選手が多い日本はどうやって世界に挑むのか。「サーブやサーブレシーブでは絶対、世界一にならないといけません」。さらにアタックで新しい何かがいる。その試みが『MB1』。
MB1とは、ブロックや速攻の軸となるミドルブロッカー(MB)の数を2人から1人に減らし、スパイク力の高いウイングスパイカー(WS)を3人から4人に増やす。新たな発想で攻撃パターンを変え、得点力をアップさせるのだ。
その新戦術のカギを握るのが、トスをあげるセッターとなる。エースの木村沙織の使い方、バックアタックを多用させる迫田さおりへのトスのタイミング……。相手のブロック網を読み、中道はあれこれと考える。
「もう頭はいっぱい、いっぱいです」と小さく笑う。考えて、ボールのところに走り込み、トスのタイミングとスピードを使い分けなければいけない。
「でも、攻撃を組み立てていて、相手が戸惑っている部分がすごくわかります。いまは楽しさ半分、大変さ半分で……。正直、不安もありましたが、結果を残せたのはよかったかなと思います」
今年を締めくくる先のワールドグランドチャンピオンズ杯で日本は3勝2敗で3位となった。五輪の翌年だ。話題を集め、選手のモチベーションを高めるためにはもってこいの新戦術だった。
根性のかたまりである。京都府城陽市出身。小学校5年生からセッター一筋で、強豪の京都橘では春高バレーでベスト4に入った。東レに進み、正確かつ冷静なトス回しでチームのVリーグ3連覇などに貢献した。ことしから主将を務める。
モットーを聞けば、「栄光に近道なし。栄冠に涙あり、です」と言う。ロンドン五輪後、両アキレス腱の痛みに悩まされていたが、リハビリを経て、復活した。
「新戦術の手応えはあるけれど、アメリカやブラジルのような組織だったブロックに対しては結果を残せなかった。そこの壁を破っていかないと、金メダルの道は開けません」
そりゃそうだ。オリンピックの金メダルに近道なしである。