「短時間労働でも出世できる」はなぜ間違いか
リクルートキャリア●海老原嗣生さん

もちろん、同じ成果を挙げているなら評価は同じでしょうが、時短で仕事が減ったぶん、業績も下がっていたらどうでしょう? 「欧米ならそうしたハンディも配慮して加点するだろう」などという意見は、大きな誤解をもとにしています。日本人は、欧米の働く人は、誰でもワークライフバランスが充実している、と勘違いしているのですね。

正確には、欧米でもワークライフバランスが充実している人と、していない人がいます。確かに出世の可能性が少ない人たちは、1日の勤務時間も短く、有休も取れます。しかし、彼らには日本の正社員のような昇給・昇進は望めません。

一方、ひと握りのエリートは超特急で出世していきますが、ワークライフバランスとは無縁の働き詰めの生活を余儀なくされます。女性も出産したら、数週間で職場に復帰します。ただしお金はあるので、家事や育児は完全にアウトソースし、シッターに任せるかたちです。

日本人は、エリートとノンエリートに分かれているこうした欧米社会の構造がよくわからず、かの国々でも日本と同じように全員が年功で出世するものだと思っています。しかも、マスコミは欧米の大多数であるノンエリートのワークライフバランスの充実ぶりを大きく報道します。結果、欧米は短時間勤務で私生活も充実させながら、出世できる理想社会だ、という誤解が蔓延してしまったのです。

出世を望むなら、長時間労働のハードワークが必須、私生活の充実を重視するなら、評価や出世は諦める。これが真っ当な原理ではないでしょうか。私生活の充実と会社での出世、一挙両得は日本でも欧米でも不可能なのです。

海老原嗣生●リクルートキャリア
特別研究員

「『女子のキャリア』で女性活用の本質を説く」
(荻野進介=構成 市来朋久、尾関裕士=撮影 PIXTA=写真)
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