Q 内容や給料に惹かれて、残業・徹夜・休日出勤が当たり前の業界に転職することを考えています。しかし妻は「いまの会社のほうがワークライフバランスのとれた働き方ができる」と反対です。やはり仕事だけでなく、私生活も重視すべきでしょうか。(地方銀行、男性、30歳、入社7年目)


A ワークライフバランスとは、「ワークとライフのバランスをとりましょう」という意味だと思います。この場合、ワークは仕事を、ライフは私生活を指していて、「仕事ばかりするのはやめよう、私生活も大事にしよう」という主張がこめられているようです。

日本人は働き過ぎだとずっと言われていますし、仕事ばかりしていて家庭を顧みないのは確かによくない。しかし、僕はそもそもワークとライフを分けて考えなくてはならない時点で寂しいことだと思っています。

なぜなら、「ワーク」とは、「ライフ」と区別して別々にとらえるものではなく、「ライフ」の一部であり、私生活そのものだと思っているからです。

僕自身はできるだけ仕事を合理的に進めたいほうですが、必要とあらば休日だろうが夜遅くだろうが働くことは苦になりません。

そういう姿を見て、「大変ですね」とねぎらってくれる人もいるのですが、本音を言うと大変どころかむしろ楽しんでいるのです。

数多くのベストセラー書籍を生み出している、エリエス・ブック・コンサルティングの土井英司社長は、「ビジネスブックマラソン」という新刊ビジネス書紹介の無料メールマガジンを、365日、休みなしで発行しています。土井さんがメルマガの原稿を書いたり、本を読んだりする時間は、はたからは「ワーク」の時間に見えます。でも本人はその時間を「ライフ」、つまり私生活も仕事も渾然一体となった「生活」の一部だと思っている。

その証拠に、土井さんはメールマガジンの編集後記に「今日は熱海に家族で来ています。久しぶりにリフレッシュしました」などと、よく書いています。プライベートな旅行にもパソコンを持っていってメルマガを書いているのでしょう。

先日、一緒に食事をしている時、土井さんが「僕はビジネスブックマラソンを続けるために他のビジネスをやっているんです」とおしゃっているのを聞いて、妙に納得しました。

土井さんにとってメルマガは、自分がやりたくてやっている「ライフ」であり、誰かに強制的に命じられている「ワーク」ではない。だからこそ続くのでしょうし、続けるための資金源として他のワークを位置づけている。「こりゃ同業他社は大変だろうな」と思ったものです。

僕は常々、「新入社員のうちは、仕事が9、私生活が1の割合で働くつもりでちょうどいい」と主張しています。なぜなら新入社員にとって仕事とは、誰かに強制的に命じられる「ワーク」に決まっているから。

でも「ワーク」の量をこなしていくうちに、だんだん仕事に面白さや、やり甲斐や社会的に貢献している感覚を覚えるようになってくる。そうすると5時を過ぎたことにも気がつかないくらい、夢中で仕事をするようになってきます。

こうなるともう私生活と仕事の境界線はなくなり、私生活に仕事を持ち込んでも全然ストレスになりません。僕自身、いまより新入社員のころのほうが仕事をしている時間は短かったのに、気持ちはいまのほうが自由です。

誤解のないように言い添えれば、僕は健康や家族との時間は仕事より価値が低いとか、仕事に自分の時間をすべて捧げなければいけないなどと言っているわけではありません。

ただ、時間配分の問題というより気持ちの問題として、オンとオフは厳密に分けなくて済むなら幸せを感じるし、むしろストレスなく働ける。ですから今よりずっと打ち込めると根拠がある仕事があるのなら転職すべきかもしれません。

それでも家族が理解を示さないようなら、まだあなたのこれまでの行動やこれからの仕事の意義について、家族の理解を得るに至っていないものと思われます。

転職を実行する前に、家族との時間の取り方から変えてみてはいかがでしょうか。具体的には、しばらく先のスケジュールがまだ真っ白なスケジュール帳を家族に示し、そこに家族との予定を真っ先に入れるのです。
仕事で余った時間が家族との時間ではなく、家族との時間を真っ先に埋め、余った時間を思う存分仕事に打ち込むという姿勢を見せることができれば、家族からの理解も深まるのではないでしょうか。

これは想像ですが、いまあなたは奥さんに仕事のグチをこぼしているのではないでしょうか。だから奥さんも心配して「いま以上に休みが減るのは危険だ」と思っているのかもしれない。

最も身近な人から味方にしていくためにも、家族を仕事の愚痴をこぼす相手にはせず、仕事を通じた未来を語る相手にすることです。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)