女性の隠れた本音「化粧落としは面倒」

資生堂 長野種雅氏( ヘア・メンズ・ボディブランドユニット)

男性が思うほど、すべての女性が化粧することを楽しんでいるわけではない。社会人のマナーとして化粧をしているが、本当はめんどくさい、ましてや化粧を落とす作業はもっとめんどくさいという声は少なくない。汗や皮脂でくずれないようになっているファンデーションは、石けんで洗うだけではほとんど落ちないため、専用のクレンジング剤を使う必要がある。疲れて帰ってきたとき、風呂に入る前に一手間かかるのは大きなストレスなのだ。

「20~40代の女性の60%以上は、『スキンケアの中で簡単に済ませたい行為』の第1位に化粧落としを挙げています。化粧を落とさずに寝てしまった経験のある人は41%。その頻度が週に1回以上の人は21%もいることがわかりました」

そう話すのは、資生堂国内化粧品事業部ヘア・メンズ・ボディブランドユニットでマーケティングを担当する長野種雅(たねまさ)さん。そこで長野さんが仕事や子育てで忙しい女性のために開発したのが、朝、化粧をする前の下地として塗っておけば、お湯で洗うだけで化粧が落ちるという「フルメーク ウォッシャブルベース」(以下、FWB)だ。

下地とは、肌の凹凸をカバーし、化粧のノリをよくするために、ファンデーションの下に塗るもの。40度のお湯に触れるとふにゃふにゃになる分子をこの下地クリームに入れることで、上に重ねた化粧も浮き上がらせて落とすというわけだ。クレンジング剤を使わずに化粧を落とせる便利さが、「できるだけ楽をしたい」という女心を掴み、普通の下地クリームが数十万個でヒット商品と言われる中、発売2カ月で200万個の出荷を記録した(2013年2月20日~4月30日)。

この商品の画期的なところは、下地に化粧落としの機能を加えるというイノベーションを起こした点にある。しかし、化粧落としを簡単にすることが狙いなら、普通はクレンジング剤の改良を目指すはずだ。この枠を超えた発想は、いったいどこから生まれたのだろうか。

「化粧をすると、化粧落としが面倒。落とすのがめんどくさいから化粧をやめようか。でも化粧はしなくちゃ……。多くの女性がそんなジレンマを抱えています。みんなが面倒と感じている、クレンジング剤を使って化粧を落とすという工程自体を省かないと、このジレンマは解消できないと思いました。そこで、一番下に塗る下地に着目したんです。例えばゆで卵の殻の下の薄皮をつるんと剥くと殻も一緒にはがれるように、下地にそれを応用すれば、化粧もつるんと取れるんじゃないかと」