小山薫堂になりきり本まで書いた
2011年秋。熊本県の地域振興キャンペーン「くまもとサプライズ」のアドバイザーを務める放送作家の小山薫堂氏は、仕事を終えて熊本県庁を後にしようとしていた。そのとき職員の1人が「これ、感謝の手紙です」という言葉とともに、分厚い封筒を差し出した。
中に入っていたのは小山氏の著書の装丁を模した手づくりの本。タイトルは『もしくま もし、しがない地方公務員集団「くまモンとおもろい仲間たち」が小山薫堂氏の「もったいない主義」他を読んだら』。小山氏のベストセラー新書にそっくりのデザインになっていた。内容は、無名だった「くまもとサプライズ」のキャラクター・くまモンが人気者になるまでの県職員たちの努力をユーモラスに綴ったものだった。
この私家版の本を書いたのが、現在熊本県ブランド推進課課長を務める成尾雅貴さんである。執筆の動機について成尾さんは、「小山さんの足元にも及ばないけれど、師匠の教えを実行した結果を記録に残しておきたかった」という。
いまや「ゆるキャラ」とは呼べないほどの人気と知名度を誇るくまモン。「生みの親」は小山氏とデザイナーの水野学氏だが、くまモンをここまで有名にした「育ての親」は、PRや広報については素人だった熊本県庁スタッフ「チームくまモン」である。
「くまもとサプライズ」プロジェクトが発足したとき、成尾さんは県の大阪事務所に赴任していた。11年3月に九州新幹線が全線開通すれば、新大阪から熊本まで3時間で来られるようになる。そこで関西を重要な観光客誘致のターゲットと定め、熊本県をPRするのが使命だった。
大阪で小山氏の講演を聞いた成尾さんは、書店で『もったいない主義』など小山氏の著書を手に取る。そのころ成尾さんは、規格外というだけで通常の流通経路に乗らない熊本産の野菜を大阪のお弁当屋に直販しようという「もったいないプロジェクト」に取り組んでいたこともあり、「もったいない」というキーワードに敏感になっていた。
小山氏の著書には、「ただ広告の枠を買って、それで終わりではもったいない。どうせなら、そのこと自体がさらなる話題を呼ぶようでありたい」「関係者全員が当事者となって自発的に動くようになるのが理想」「誰かを喜ばせるためのサプライズを考えると企画力がつく」などと書かれていた。成尾さんはその一文一文に刺激を受ける。