お金で「横入り」できる仕組みではない

こうした制限をふまえれば、現行制度下でおこなえる「医療版ファストパス」は、来院済みの患者さんを差し置いて、その場で料金を払って順番を繰り上げる、つまり予約なしの患者さんが、いきなり待っている人を追い越して「横入り」することはできないと解釈されます。

あくまでも選定療養として認められた「予約に基づく診察」のルールのなかで予約した人が、追加料金を支払うことによって予約枠内で順序を上げることができる、といった仕組みだからです。

現状では、お金を持っている人が、金銭的余裕のない人を押しのけて優遇されるシステムとまでは言えません。

したがって、賛成者の「選択肢の拡大によって、患者は時間節約、病院はクレーム減になる」というメリットも、現行制度上では限定的と言えますし、反対者の「経済的な優越が優先順位に反映され、健康格差につながる」との懸念も、現行制度で生じる可能性はかなり低いと言えるのです。

ただし、その根幹は揺らぎ始めている

この部分の理解が正確でないと、「医療版ファストパス」をめぐる賛否の意見の交換は本質を見失ってしまいます。

ただ、この「医療版ファストパス」に賛成する前者のような意見が今後増えることによって、後者のような懸念が現実化する危険性については、今のうちから十分に注意して今後の医療政策を監視していく必要があります。

それは、現時点において、わが国の国民皆保険制度の根幹を揺るがしかねない「変革」が着々と、そして確実に実行に移されてきているからです。

たとえば、骨太方針2025は保険外併用療養費制度の対象範囲の拡大と公的保険を補完する民間保険の開発を促しています。

わかりやすく言えば、公的医療費の増加を抑制するとの理由から、自己負担を増やす方向とするので、心配な人は民間保険に加入することで準備しておきなさいという方針、つまり「健康自己責任」の理屈です。

以前にも取り上げた「OTC類似薬」の薬剤費の一部を自己負担として徴収すること、高額療養費制度の上限額引き上げなどは、この一連の「変革」の流れから生じたものです。