「粗食は健康」「歩けば安心」は本当か。年齢を重ねた体には、現役時代とは逆の常識が必要だ。入院せずに自立して生きる知恵を専門家に聞いた。
制度・サービスを知り、寝込む前に「自分から動く」

「様子を見る」という判断が寝たきりを招く

先日、講演のために一つの事例をまとめました。60代の女性・Aさんは夫と二人暮らし。ある晩、午後10時を回った頃、風呂場から出てきた夫が激しいめまいに襲われ、倒れ込んでしまいました。Aさんはすぐに「救急車を呼ぶわ」と言ったのですが、夫が「楽になったから大丈夫」と言うので、様子を見ることにしたそうです。

ところが翌朝、夫は体がまったく動かせなくなっていました。搬送されて脳梗塞と判明。倒れてから12時間以上が経過しており、重篤な状態でした。結局そのまま、夫は寝たきりに近い状態になってしまったのです。

私はこの話を思い出すたびに、そのとき「♯7119」に電話していたら……と思わずにはいられません。

♯7119は「救急安心センター」の番号です。「相当具合が悪いけれど、救急車を呼ぶほどだろうか」「大げさではないか」と迷ったとき、医師や看護師などの相談員が状況を聞いて、緊急性のある症状か、すぐに病院を受診する必要があるかを判断し、助言してくれます。Aさんが♯7119に電話していれば、おそらくは「いますぐ救急車を呼んでください」と言われ、翌朝まで待つことにはならなかったはずです。脳梗塞は時間との勝負ですから、半日の遅れがその後の人生を左右しかねません。

このケースのように同居人がいても、本人が「楽になった」と言えば、家族はそちらを信じてしまうのですから、誰かと一緒にいることは必ずしも安心を意味しません。むしろひとり暮らしのほうが、危機に対して敏感でいられるというアドバンテージがあるとも考えられます。とにかく「迷ったら♯7119」と覚えておき、自分から動くことを忘れないでください。

不安なことができたら「地域包括支援センター」へ

日本は超高齢社会ですから、シニアが住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう、さまざまな制度やサービスが公的に整えられています。ただ、そもそもどんなサービスがあるのかを知らない人のほうが多いでしょう。

そんなときの入り口が「地域包括支援センター」。心身の衰えが気になったら、まずここに相談しましょう。だいたい中学校区ごとに1カ所、設けられており、社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーといった資格を持つスタッフが、専門性を活かして無料で相談に応じ、情報を提供してくれます。親の介護で利用した人ならご存じでしょうが、経験のない人は、自分のためにこうした場所があることすら知らない場合も多く、この情報格差がいざというときに大きく響きます。

支援センターと聞くと、相当具合が悪くなってから駆け込むところだと思うかもしれませんが、そうではありません。65歳以上なら誰でも利用でき、65歳未満でも加齢による心身機能の低下なら対応してもらえます。「このままひとり暮らしを続けていけるだろうか」「病気になったとき、頼れる人がいなくて不安」といった漠然とした悩みにも答えてくれるので、気になることは、早めに相談して解決しましょう。

自治体の「介護予防」はバリエーション豊か

「介護予防」の観点でも、さまざまな公的サービスがあります。要介護状態になる人を減らすことは、本人のためだけでなく、介護保険の負担を抑えることにもつながるため、行政でも力を入れている部分です。

これに該当するのが、各自治体が実施している「介護予防・日常生活支援総合事業」です。日常生活上の援助が必要な人に向けた「サービス・活動事業」と、「一般介護予防事業」で構成されているものですが、後者は文字通り「予防」を目的としたサービスであり、65歳以上なら誰でも使えます。

(構成=本誌編集部)