「つながりを大切に」「積極的に社会参加を」といった「圧」に従わなくていい。孤立を防ぐのは、友だちでもご近所でもなく、ゆるい「顔なじみ」だ。

地域活動へは不参加 パチンコ通いで十分

私の専門は、老年社会学です。人生100年時代を迎える中で、豊かな年の重ね方と社会とのつながり方について研究しています。

澤岡詩野さん
澤岡詩野 Shino Sawaoka
1974年生まれ。東海大学健康学部教授。専門は老年社会学。ハードとソフトの両面からコミュニティを考えるという視点で、高齢者の人間関係の場を模索する。著書に『豊かに歳を重ねるための「百人力」の見つけ方』(カナリアコミュニケーションズ)などがある。

定年などで仕事を辞めた途端、自分の居場所を失くしてしまう人がたくさんいます。現役時代にバリバリ働いていた人ほど、自宅を中心とする地域との関わりを築いていないため、孤立しやすい傾向にあるのが現実です。

従来、男性ビジネスパーソンにとっては、専業主婦である妻の存在がセーフティネットになってきました。自身は地域社会とつながりがなくても、妻がつながっているために孤立化を防げたのです。

しかしこれからは、その前提が崩れていきます。夫婦共働きのため地域との接点がない女性や、単身のビジネスパーソンも増えたので、中高年の孤立化問題は深刻になっていくでしょう。

人は誰しも「リタイアしたら自由に豊かに暮らしたい」と願うものです。しかし退職した途端に、「あなたの生きがいは何ですか? これからは、やりたかったことを何でもできますよ」と迫られても、何をすればいいかわからず立ちすくんでしまうのが普通です。

私は、メディアにも問題があると思っています。報じられるのは、退職後に夫婦で地方へ移住して古民家カフェを開くような「キラキラした成功事例」か、「孤独死して数カ月後に発見」という両極端ばかり。ごく普通のシニアは「あんなセカンドライフ、自分には無理だ」と感じたり、将来を悲観したりしてしまいがちです。

高齢者の孤立を避けるためと称して語られるノウハウにも、問題があると思います。次の4つを実践しなければと感じつつ、できずに悩む人もいるのではないでしょうか。でもこの4つは思い込みや誤解だと感じています。

【誤解①】地域とつながらなければいけない

国や自治体は孤立化を防ぐため、さかんに「地域でつながりましょう」「社会参加をしましょう」と発信します。間違いではないのですが、実際にどの程度の人が実現できるでしょうか。

内閣府の調査によると、日本人は他国の高齢者と比べ、家や職場以外に居心地のいい「サードプレイス」を持つのが苦手なことがわかりました。サードプレイスをひとつも持っていないと答えた日本人は16.9%で、ドイツ8.5%、アメリカ4.9%、スウェーデン2.7%を大きく上回ります。また、誰かが意図して作った場には居心地のよさを感じる人が少ないということも、明らかになっています(図表1)。居場所というのは居心地のよさを感じる場所なのですから、馴染める人は自分の判断で行けばいいのです。

あるパチンコ好きの高齢女性から聞いた話があります。週に1度、5000円だけと決めて、ちょっとお洒落して出かけていくと、いつも喫煙所で会う同世代の女性がいる。話してみたらお互いに一人暮らしで、どちらも地域の活動に参加するのが苦手。気が合って毎週パチンコ屋さんで待ち合わせ、タバコを吸いながら「今日も出ないわねぇ」と他愛のない話をする。「そこが私たちのオアシスなのよ」と、笑っていました。

(構成=石井謙一郎 図版作成=大橋昭一)