ひとり老後では、あいさつを交わす顔なじみがいるだけで精神的に安定する。心身の健康を保つために、精神科医がすすめる「近所に持つべき4つの居場所」とは。

心身が健康であるために重要な3つのサポート

ひとり老後を迎えるうえで、最も警戒しなければならないリスクは「社会的孤立」です。定年退職によって「会社」というコミュニティから離脱したり、身内との付き合いが途絶えてしまったりした高齢者は、意識して社会との接点を維持しなければ、あっという間に孤立してしまいます。

保坂 隆さん
保坂 隆 Takashi Hosaka
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科学教室に入局。聖路加国際病院精神腫瘍科部長などを経て現職。著書に『お金をかけず気軽にできる「ひとり老後」が楽しい77の習慣』(KADOKAWA)など多数。

精神医学やシニア世代のメンタルヘルスの分野では、人が心身ともに健康を保って生きていくためには、人間関係のネットワークである「ソーシャルサポート(社会的支援)」が大切とされています。これは大きく3つの要素に分類されます。

1つ目は「情緒的サポート」。これは、会うだけでホッとするような人や、話をすることで精神的な安定を得られるような存在、すなわち「心の友」のこと。2つ目は「手段的サポート」。いざというときに互いの身の回りの世話や実務的な助け合いができる関係です。例えば、風邪などで寝込んだときに食料や日用品の買い出しに行ってくれるような、助け合いの約束を交わせる友人のことです。そして3つ目が「情報的サポート」。これは特定の分野に詳しく、困ったときに有益なアドバイスをくれる存在。例えば「前立腺がんの不安があるが、どの病院がよいか」と悩んだ際に、信頼できる泌尿器科の情報を一緒に探してくれるような人です。

これら3つのサポートは、遠く離れて暮らす親族よりも、近隣に住む友人のほうが機能しやすいという特徴があります。また、これらの役割をすべて配偶者一人に依存していると、パートナーに先立たれた瞬間に孤立無援となるため、その備えとしても重要です。

だからこそ、元気なうちから地域社会の中で「いざというときは助け合おう」と“ゆるい約束”を結べる人間関係を築くことが不可欠です。その土壌となるのが、自宅から近い距離、できれば徒歩10分、遠くても自転車で通える範囲にある複数の居場所なのです。そこで、脳と体の機能も刺激してくれる「4つの居場所」を提案してみます。

運動しなくてもいいからスポーツクラブへ行く

①行きつけのスポーツクラブ

「地域でなじみの店をつくる」というと、多くの人は居酒屋や喫茶店に通い詰め、常連客のコミュニティに飛び込んでいくイメージを持つでしょう。もちろんそれはよい居場所となりますが、内向的な人にはかえってストレスとなる場合もあります。そこで老後生活における重要な拠点としておすすめしたいのが、地域のスポーツクラブです。

スポーツクラブというと、ランニングやマシントレーニングなどを連想しがちですが、シニア世代の利用目的はそれでなくても構いません。極端に言えば運動をする必要すらなく、軽くストレッチをするだけ、お風呂やサウナに入るためだけに訪れてもよいのです。ここでの真の目的はトレーニングではなく「顔なじみとのあいさつ」です。

毎日のように同じ時間帯に通っていれば、自然と顔を合わせるメンバーが決まってきます。「こんにちは」「今日はいい天気ですね」といった短い言葉を交わすだけでも、脳内ではセロトニンなどの神経伝達物質が分泌され、精神的な安定がもたらされます。筋トレのマシンを前に「これってどういうふうに使うんですか?」という感じで詳しそうな人に質問すると、会話のきっかけをつくりやすいでしょう。

さらに、「いつも来るはずの人が、ここ数日姿を見せないな」と周囲が自然に気づいてくれる環境は、ひとり老後における「ゆるい生存確認システム」の役割も果たしてくれます。実は私自身、お気に入りのスポーツクラブの近くへわざわざ引っ越したほどで、それだけ大切な居場所になっています。

②秘密基地的な店・場所

万人受けする場所ではなく、少しニッチな趣味やこだわりを持つ人々が集まる「秘密基地」のような場所を持つこともおすすめです。例えば中古レコードショップ、こだわりのある古書店、ホビーショップ(プラモデル、鉄道模型、ラジコン、フィギュアなど)です。大型店舗とは違い、マニアックな場所には共通の嗜好を持った人々が自然と引き寄せられます。

(構成=篠原克周)