人間、誰しもが「おひとりさまになる可能性がある」と、相続の専門家は警鐘を鳴らす。判断能力があるうちに準備しておくべきこととは――。

親戚がたくさんいても「相続人なし」はある

私は司法書士・行政書士として、相続や遺言、認知症に備える「生前対策」のご相談を、これまで2000件以上お受けしてきました。その中で年々増えていると実感するのが、「おひとりさま」の終活に関するご相談です。

「おひとりさま」という言葉に、法律上の決まった定義はありません。使う人によって指す範囲はまちまちですが、厳格に捉えれば、法律上の相続人がいない、後に述べる「法定相続人」が誰もいない方を指します。

ただし、実際にご相談に来られるのは「親族はいるけれど疎遠」「近くに頼れる親族や友人がいない」という方のほうが多いのが実情です。私は、このパターンまで「おひとりさま」として考えておくべきだと思っています。

強調したいのは、この問題が「いまおひとりさまの人」だけのものではない、ということです。いま身寄りがあると思っている方も、決して無関係ではありません。その理由をお話しするには、まず「相続人」とは誰を指すのかを知っていただく必要があります。

備えを考える出発点は、「自分が亡くなったとき、財産を受け取る人(法定相続人)がいるのかどうか」を正しく把握することです。

民法が定める相続人の範囲を整理しましょう。まず配偶者は、いる限り常に相続人になります。そのうえで、配偶者以外には順位があります。第1順位は子どもです(子がすでに亡くなっていれば、孫が代わって相続する)。子や孫がいなければ、第2順位として親や祖父母などの直系尊属。親・祖父母もいなければ、第3順位としてきょうだいが相続人です。きょうだいが先に亡くなっている場合は、その子、つまり甥・姪までは相続権が引き継がれます。

覚えてほしいのが、相続人の範囲はここで打ち止めだ、ということです。よく誤解されるのですが、いとこは相続人になりません。「親戚はたくさんいるから、誰かが受け取ってくれるだろう」と思っていても、法律上は受け取る権利のある人が一人もいない、というケースは決して珍しくないのです。まずはご自分の血縁関係を、一度確かめてみてください。

相続人の範囲がこれほど狭いことを踏まえると、「自分には身寄りがある」と思っている方の多くが、実は将来のおひとりさま予備軍だとわかります。

いちばんわかりやすいのが、お子さんのいないご夫婦です。

確かに、配偶者がいるうちは必ず相続人がいますが、どちらかが先立った場合、残された側は必ず一人になります。そのうえ、残された方が一人っ子で、親や祖父母、甥や姪がすでにいなければ、その人には法定相続人が一人もいない、ということになります。ごく普通のご家庭でも、おひとりさまになりえるわけです。