※本稿は、アンナ・レンブケ『脱ドーパミン中毒』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
30年前より幸福度が低下、うつが増加
本稿の背景には、豊かさが実はストレス要因となり、世界中で依存症、うつ病、不安障害、自殺率を増加させている、という考えがある。人類はこれまでになく、生存の基本的ニーズ(衣食住)を満たせるようになった。
人類史のどこをみても、これほど自由に使える収入や手が届く贅沢品、余暇時間が増えたことはなく、それは最も貧しい層の人たちにも当てはまるのである(2040年までに、米国の典型的な一日の余暇時間は7.2時間、労働時間はわずか3.8時間になると予測されている)。
人間の生活のありとあらゆる側面が、もっとそれを欲しがるように、一つひとつがより手に入りやすく、より斬新で、より強力になるように設計されている……つまり、「依存」を引き起こしやすくなっている。
調査報告によれば、今日の我々は30年前と比べて幸福度が下がり、うつや不安が増えている。若くして命を落とす人も増えている。現在、世界の死亡事例の70%は、喫煙・運動不足・不健康な食生活など修正可能な危険因子に関連している。
豊かな国ほど不幸になるパラドックス
最も不可解なのは、国が豊かになり、精神医療へアクセスできるようになればなるほど国民は不幸で、うつっぽく、不安が強くなっていくことだ。これは「豊かさのパラドックス」と言える。
過剰な豊かさがストレスになることに加え、私たちが心の健康について根本的に誤解しているところもあると思う。
精神科医としてキャリアを積んできた中で私は、愛情深い家族に囲まれ、エリート教育を受け、裕福で、身体的には健康な若者たちが、人生を崩壊させるほどのうつや不安に苦しむのをたくさん見てきた。
問題はトラウマや社会的疎外や貧困ではない。過剰な豊かさと、一瞬の快楽に絶え間なく晒され、脳が変わっていることなのだ。

