専用の「太刀」を預けられるまでに
しかし喜びもつかの間、相当な経験を必要とするマグロの解体だけに、最初からうまくいくはずはない。悔しい思いをたくさんして、時には涙したこともあったという。
それでも持ち前の真っすぐでひたむきな姿勢が実を結び、次第に腕を上げていった。3年ほど前からは、店長から高橋さん専用の「太刀」を預けられ、マグロ解体の花形・見せ場である「太刀入れ」を任されるようになっている。「ツナプリンセス」「女性マグロ解体師」の誕生である。
大間のマグロをはじめ、上マグロの扱いで知られるキタニ水産で腕を磨き、店の売り上げにも大きく貢献している高橋さん。前職の経験を生かして店頭に張り出すポップも制作し、まさに「看板娘」として生き生きと仕事に取り組んでいる。
丸のままのマグロから身質を見極める
内外から熱い視線を送られ、豊洲~築地で活躍する高橋さんだが、冷静に今後の課題を頭に浮かべている。
熟練を要する豊洲でのマグロの買い付けについて、キタニ水産では社長が担っており、高橋さんは社長が競り落としたマグロを解体し、販売している。
マグロの身質を競り前に判断する「下付け」は、見誤れば大きなリスクが生じるため、現在はその「いろは」を少しずつ習得中だ。豊洲ではマグロ以外の仕入れも行っているため、時間があるときは週に1〜2度、マグロの競り場に足を運んでいるという。
競り場のマグロは、腹から内臓が取り除かれ、尾が切られた状態でドンと横たわっている。その形状や尾や腹の状態・色などさまざまの観点から、さばいた後の脂の乗りや赤身の色合い、しっとり感などを想像し「買いだ」と決めるのが下付けだ。「50年やっても失敗することがある」(豊洲のベテラン仲卸業者)ほど、難解な見極めだという。
真剣勝負のマグロの競りで、今年6月下旬、「私が下付けしたマグロを社長が競り落としてくれました。社長からは『自分が下付けしたんだから、頑張って売れよ』と、最高に痺れる一言をもらいました」と高橋さんは興奮気味に語った。
落札の証しである「キタニ水産」の札が貼られたそのマグロは、境港産139キロ物。はたして解体後、身質はどうなっているのか。割った断面を見た高橋さんは、「やはり自分が思った通り、いいマグロだ!」と胸をなで下ろした。
しかし、マグロの目利きは、そう単純ではなかった。
「(築地場外市場に来る)馴染みのお客様には、私が選んだマグロを(社長に)競り落としてもらったから、ぜひ買いに来てほしいと連絡していました。ところが時間が経つと色変わり(身色の変色)が思ったよりも早く、難しさを痛感しました」


