備えの第一歩は「自分のタイプ」を知る
老後に備える資産設計で難しいのは「何歳まで生きるか」がわからないことです。平均寿命を目安にしたくなりますが、平均を超えて生きる人は大勢いますし、健康増進や医療・介護の進化で平均寿命そのものも今後ますます延びるでしょう。喜ばしいことではあるものの、「いつまで、いくら備えればいいか」が定まらないというのは、家計設計を難しくしています。
今や多くの人が最後は「おひとりさま」として人生を終えることになります。かつては、多くの人が結婚してマイホームを持ち、子どもを生み育て、高齢になったら子世帯と同居するという典型例にあてはまりました。しかし今は多様化の時代です。未婚も離婚も珍しくありませんし、結婚していても子どもがいない場合や、いても同居しないケースが増えています。住まいにしても、誰もがマイホームを手にするわけではありません。配偶者がいても二人同時に亡くなるわけではありません。各自が自分の状況に応じた老後設計をしなければならないのです。
年金や税金、社会保険や各種手当など老後のお金にまつわる制度やルールは複雑で、知らないと損をすることばかりです。さじを投げたい気持ちにもなるでしょう。ですが、計画を立てずに放っておくと、それは不安とプレッシャーになって、将来、私たちにのしかかるのです。
必要な老後資金は人によって違います。配偶者がいるかいないか、住まいは持ち家か賃貸か、子どもはいるのか、いないのか。条件が変われば備えるべき額も変わります。ですから、まずは自分がどの条件にあてはまるのかを見極めてください。「家計タイプ診断フローチャート(図表1)」をたどると、配偶者の有無/住まい/子どもの有無で3つのケースのいずれかに行き着きます。もちろん、あくまで代表的なケースへの振り分けなので、複数のケースに該当する方は、それぞれの打ち手を組み合わせてください。
次に、今の金融資産と将来受け取れる年金の見込額を確かめてください。金融資産には自宅などの評価額は含めず、現預金と株・投資信託・債券など換金性の高い金融商品の総額を含めます。続いて、老後の家計に毎月いくらの赤字が出るかを算出します。老後の年金収入(見込み)から、月々の生活費を引きます。生活費は「現役時代の生活水準を維持する」と仮定して、現在の生活費で計算してください。
例えば、年金収入が月22万円で家計の支出が月30万円なら、毎月8万円の不足です。この8万円を金融資産から取り崩していくことになります。65歳時点で保有する金融資産が1000万円なら75歳まで取り崩せる計算です(図表2参照)。100歳までお金が尽きないようにするなら、残り25年分の備えとして8万円×25年×12カ月=2400万円を、手当てする必要があります。
ここで気をつけていただきたいのは、夫婦二人の年金額を将来の収入源と想定して、不足額が「思いのほか小さくてすんだ」と胸をなでおろしている人です。配偶者が先立てば、それ以降の受給額は激減してしまいます。子どもに頼ろうにも遠方に住んでいて頼みにくい場合や、そもそも子ども自身の家計に、親を援助できるほどの余裕がない可能性もあります。「今は夫婦で家計が回っているのだし、将来も何とかなるだろう」という油断で、備えが遅れないようにしてほしいのです。
未来に関して、不確定要素はいくらでも挙げられます。物価が上がって生活費が想定以上にかかるかもしれませんし、病気やケガで大きな費用が必要になるかもしれません。考えうるすべてに備えるのも、現実的ではありません。想定よりもほんの少し余裕をもって、備えておければ安心です。
打ち手はいろいろあります。生活スタイルを見直して今よりもお金がかからないように工夫する、もしくは、パートやアルバイトで年金以外の収入を確保して不足分を補うこともできます。ケガや病気には保険で備える方法もあるでしょう。「繰り下げ受給」など年金の受け取り方を変えるだけでも、収入増につなげられます。知っているかどうかで、結果は大きく変わります。
私は税理士として多くのシニアの方の家計相談を受けています。100人いれば100通りの家計と事情がありますが、大切なのはどういうシナリオがありうるのかを知っておくこと。そして、できるだけ早くから準備を始めることです。
試行錯誤があるのは当然ですが、早いうちならたとえ失敗しても、計画を修正し立て直すことができます。残り時間が見えてきたからこそ、設計の効果は大きいです。




