※本稿は、勝見祐太『ハーバードが教える 認知症にならない脳のつくり方』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
歴史を変える期待の「レカネマブ」
「認知症は治らない」――そう思っている方も多いでしょう。確かに現時点では、神経細胞の死を完全に食い止め、失われた機能を取りもどす「根治療法」は存在しません。しかし、「治療できることは何もない」というのは正確ではありません。
アルツハイマー病の対症療法として長年使われてきたのが、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)とメマンチンです。これらは脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、症状の進行を一時的にゆるやかにします。
病気の根本原因を取り除くわけではありませんが、患者さんのQOLを維持するうえで重要な役割を担ってきました。
そして2023年以降、認知症治療の歴史を塗り替える可能性を持つ薬が登場しました。それが「抗アミロイドβ抗体薬」です。
「レカネマブ(製品名:レケンビ)」は、脳内のアミロイドβ(特にプロトフィブリルと呼ばれる可溶性の凝集体)を標的とする抗体薬です。2023年1月に米国FDA(食品医薬品局。日本でいう厚生労働省)の承認を受け、日本でも2023年9月に承認されました。
「ドナネマブ」も進行を遅らせる
CLARITY-ADと呼ばれる臨床第3相試験(1734名参加)では、18カ月間の投与により、プラセボ群(本物の薬に見えるが有効成分が入っていない偽薬を使った人々)と比較して認知機能の低下が約27%抑制されたことが示されました。脳内のアミロイドも大幅に減少し、PETで確認できるほどの顕著な除去効果が得られました。
一方、「ドナネマブ(製品名:ケサンラ)」は2024年7月にFDA承認を受けました。TRAILBLAZER-ALZ 2試験では、薬を投与された患者の47%が1年間で認知機能の低下を示さなかったのに対し、プラセボ群では29%にとどまりました。
ドナネマブの特徴は、アミロイドが十分に除去された時点で投与を中断できる可能性があることです。
12〜18カ月の投与でアミロイドPET(脳内のアミロイドβの蓄積を画像で調べる検査)が陰性化した場合に休薬でき、その後のアミロイド再蓄積は少なくとも数年単位でゆっくりとしたペースであることが示されています。
これらの薬は「病気の進行を止める」のではなく「進行を遅らせる」ものです。認知機能の低下は両群ともに進んでいますが、そのスピードを有意にゆるやかにするということが、臨床的な意義として認められたのです。

