放置してはいけない「難聴」「視力低下」
14のリスク因子は、人生の段階ごとに整理されています。幼少期には「低い教育水準」。中年期(18〜65歳)には「難聴」「高血圧」「肥満」「喫煙」「うつ病」「身体的不活動」「高LDLコレステロール」「過度の飲酒」「外傷性脳損傷」「糖尿病」。高齢期には「社会的孤立」「大気汚染」「視力低下」です。
これらを見ると、「生活習慣病の予防」と「認知症の予防」が深く重なっていることがわかります。血圧を管理する、コレステロールを下げる、タバコをやめる、運動する――これらは心臓病や脳卒中の予防として広く知られていますが、実は同時に認知症予防にも直結しているのです。
特に注目したいのが「難聴」です。
中年期の難聴は、認知症リスクの修正可能な因子のなかで高LDLコレステロールと並んで最も寄与割合が高いとされています。補聴器を使わずに聴力を放置することが、認知機能の低下を加速させる可能性があるということを、多くの人はまだ知りません。「聞こえにくくなってきたかも」と感じたら、耳鼻科受診を先延ばしにしないことが、実は脳を守ることにもつながっています。
「視力低下」が2024年に新たに加わったことも重要です。見えにくいまま生活することが認知的な刺激を減らし、社会参加を困難にし、ひいては脳の老化を加速させる可能性があります。
眼鏡や白内障手術による視力矯正が認知症予防に貢献しうるという考え方は、シンプルですが大きな公衆衛生的意義を持ちます。
認知症の原因は遺伝か、生活習慣か
「親が認知症だったから、自分もなるのでは」――そういった心配を抱える方は多いと思います。遺伝の影響は確かに存在します。しかし、どの程度影響するかは、認知症の種類や遺伝子の種類によって大きく異なります。
アルツハイマー病の大多数(90〜95%以上)は「孤発性(散発性)」と呼ばれ、特定の単一遺伝子変異ではなく、複数の遺伝的要因と環境・生活習慣の組み合わせによって発症します。APOE ε4 遺伝子(※)はリスクを高めますが、それだけで発症が決まるわけではありません。
一方、FTDでは遺伝性のケースが約20〜40%を占め、アルツハイマー病よりも遺伝の影響が強い疾患です。C9orf72、GRN、MAPTといった遺伝子変異が家族性FTDの主要な原因として知られており、これらは常染色体顕性遺伝の形式で親から子に伝わることがあります。
※アルツハイマー病発症のリスクに関わる遺伝子のなかで最もよく知られている変異。この変異を1つ持つだけでリスクが約3倍、2つ持つと12倍にもなると言われている。

