新薬の恩恵を受けるには早期発見が必要
「27%の抑制」という数字をどう解釈すればいいか。1〜2年という短い試験期間ではその差はわずかに見えますが、10年・20年というスケールで見たとき、この「スピードの差」が実際の生活の質や自立度にどれほど大きな違いをもたらすか――それを明らかにするための長期追跡研究が進行中です。
認知症の治療は、いままさに「何もできなかった時代」から「遅らせることができる時代」への転換点にあります。
ただし、注意すべき副作用があります。「ARIA(アミロイド関連画像異常)」と呼ばれる、脳浮腫や微小出血がMRIで観察される副作用が、患者の約10〜30%に認められます。多くは無症状ですが、ごく一部では頭痛やめまいなどの症状が出ることがあります。
また、血液をサラサラにする抗凝固薬を服用している患者への投与は、出血リスクの観点から現時点では慎重に検討が必要です。
これらの抗アミロイド治療は、あくまで「早期」(軽度認知障害〔MCI〕または軽度認知症の段階)の患者を対象としています。脳の神経細胞がある程度失われた後では効果が期待しにくいため、早期発見・早期治療が鍵となります。
血液バイオマーカーや脳イメージングを使った早期診断体制の整備が、今後の認知症医療において最重要課題の1つです。
前頭側頭型認知症(FTD)やレビー小体型認知症については、残念ながら現時点でFDA承認の疾患修飾薬(病気そのものの進行メカニズムに働きかけて、進行を遅らせたり病態を変えたりする薬)は存在しません。
FTDの病理の主な原因タンパク質であるTDP-43やタウを標的とした治療薬の開発が精力的に進められており、私の研究グループもこの分野に深く関わっていますが、承認に至る薬剤はまだ出ていないのが現状です。
「修正可能」な14のリスク因子
認知症の予防について、最も重要な科学的根拠の1つが2024年に更新された「ランセット委員会(Lancet Commission)」の報告書です。
世界的な医学誌『ランセット』が定期的に発行するこの報告書は、世界中の認知症に関する研究を網羅的に分析し、「認知症に関連する修正可能なリスク因子」を特定してきました。2024年版では新たに「視力低下(未治療)」と「高LDLコレステロール(脂質異常症)」が追加され、合計14のリスク因子が特定されました。
そしてその結論は明快です。これら14のリスク因子をすべてコントロールすれば、世界の認知症の約45%は予防または発症を遅らせることができる可能性がある、というものです。

